第二章 アザフェル

第30話 竜と天使のハーフ

私は竜の父と天使の母の間に生まれた。


しかし、竜と天使のハーフでありながらも、外見はなんの変哲もなく、かろうじて竜の姿であるだけ、それら特有の強さを引き継げなかった私は捨てられた。


竜と天使は、この世の生物の中でも比較的生まれてから早く自立する種族で、人間では自立するのに10年ほどかかるが、竜と天使は3年ほどで自立できる。


そのこともあってか、その竜の少女は生き延びた。

自立できたとは言え、まだ3歳という年で。




毎日おなかを減らしながら、必死におなかを満たすために狩りに出ようとしたら、

竜の少女と同じように捨てられたかわいそうなエルフを見て救い出したり、

その子の分の食事も頑張って用意しようとしたのはいいが、

種族特有の強さを引き継げず、まだ幼いため、

何回もヘマをして、ぼろぼろになりながらも、

1人分のご飯くらいしか用意できなかったりした。

そして、その1人分のご飯をすべてその子にあげてしまい、

自分が餓死ししそうになったりしたこともあった。



そんな、時々死にそうになりながらも、楽しい、幸せの日々が続いた。






父と母に期待されていたのに、それを裏切ってしまったことに申し訳なさが募った。

みんなの荷物になる自分が許せなかった。


毎日、毎日、誰かの邪魔になっていると突き付けられるのも、

捨てられるかもしれないという恐怖にさらされるのも、

苦しかった。


優秀な2人の親が私の無能さをさらに引き立てる。

自分のせいなのに、そんなことを考えている自分が腹立たしかった。


そんな自分が大嫌いで消えたかった。


いっそのこと、どこかに出ていきたいけれども、仮にも竜と天使のハーフだ。

もしも、自分が死んで、自分をだしにみんなが侮辱されたり、

迷惑をかけるのも心苦しい。


ならば、いっそのこと、捨ててほしいけれど、私にはそんな価値もない。

逃げたい。逃げたい。逃げたい。




自分が感じる

そのみんなへの申し訳なさや心苦しささえも、

自分が逃げる口実にしているように感じられた。


感じられただけで、ただの妄想だったのかもしれない。


いや、もしかしたら、そうじゃなかったのかもしれない。


最低だ。


私は最低だ。


私は最悪だ。



考えれば、考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。


ただ1つ私が分かったことは、

私の存在は自分を含めたこの世のありとあらゆるものにとって不要で、邪魔なものだろうということだけ。


思考の渦に巻き込まれていく。


感情という荒々しい波に飲み込まれていく。


だんだんと沈んでいく。


溺れていく。


肺に水がどんどん流れ込んでくるようなそんな感じがする。


息ができない。


苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。


誰か、誰か、誰か…


…いや、こんな私に巻き込まれるのは誰だって嫌だろう。


このまま、沈んでいけばいい。


1人でただもう、誰にも迷惑をかけないように…









そんなことも考えないでよくなる。


誰にも迷惑をかけないで、たまに困っている子がいたら、

ほんの少しだけれど助けてあげられて、

一緒にたわいもないことをしゃべって、

仲良く一緒に当たり前の日々を過ごして。



そう思っていたのに‥‥。








ある日、突然幸せは壊れる。


その日は、どしゃぶりの雨だった。




狩りに出ていた竜の少女はめずらしく、食料が多めに手に入ったので、これ幸いと心配するエルフの子のもとに帰ろうとした。


しかし、その道中、森がおかしかった。

誰も遭遇しないのだ。

狩りに出た朝は、そんなに、露骨じゃなかった。


悪い予感がする。

悪い想像が頭の中を駆け巡る。


「おねがい。無事でいて。」

竜の少女は、せっかく手に入った食料をぼとぼととこぼしながら、自分の少ない体力で精一杯走った。



そういつも、悪い予感は的中する。

神は未熟な私には微笑んでくださらない。

しかし、二ナは紛れもなくとてもいい子だ。

私への罰があの子の元まで届きませんように。

神よ、どうかあの子をお助けください。



「二ナ!」


そこには、二ナのいや、二ナであったはずのものが転がっていた。


「ニ…ナ…?」

「ニ…ナ…」

「…どうして、ニナ。」


「…ねえ、ニナ。ねえ、ねえ、起きて‼」


「…どうして、私が悪かったのかな?」


「ねえ、ニナ。全部、私の、私の、せいだって怒ってよ。」


「ニナ。私の狩りが下手すぎるねって笑ってよ。

 いつもみたいに、量が少ない食料を私の料理の下手さを見て笑いながら、

 しょうがないなっていつもみたいにおいしい料理を作ってよ。」


「ニナ、ニナ、ニナ、…」





「…そうだ、何か食べなきゃ。」





竜の少女は、そうつぶやいてよろよろとキッチンに足を向けた。






しかし、次の瞬間、自分の身体が7色に光始めた。


そして、その光は急速に自分の身体だけでなく、あっという間に竜の少女の周りを包み込むように、広がっていく。


それからしばらくすると広がっていった光はやがて収まっていった。




周囲をぐるっと見渡す。

そこに広がるのは、竜の少女がぐちゃぐちゃにした後にエルフの子が綺麗にきちっと整頓していたキッチンでもなければ、しんみりとした静かなたまに死にかけそうになっていたうっそうと森の中でもないようだった。






「…えっ。ここは…どこ?」





戸惑いながらも、一番最初に目に付いたのは一人の少年の姿だった。

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