第28話 異変

宿の全ての部屋が静まり返っていた0時。


しかし、その静寂の雰囲気がひそかに打ち破られようとしていた。


がばっ。


少年は勢いよく、体を起こした。


竜の少女に持たせていたサーチペンダントの魔力との


つながりが途絶えたのを感じたのだ。


たいていの人は見逃してしまうだろうが、


少年の表情には打って変わって、ほんの少しだけ、焦りの感情が含まれていた。


しかし、焦りのなかでも、少年は冷静に思考を回す。


サーチペンダントの魔力とのつながりが途絶える少し前までにあったであろう場所を


割り出し、その範囲をものすごい速度で見ていく。


「どうやら、帝都の食料庫がある村らへんまでにはたどり着いたらしい。」



ときどき、少年の左目から放たれるわずかな光が消えていた。


そう、その中で、虹の瞳イビルアイが弾かれる場所があったのだ。


「そして、帝都の食料庫がある村が直接見えるようになる


 1本道の手前の道周辺から帝都の食料庫がある村全エリアが見えない。」


「それから、今までの道すじからもわかるようにアザフェルはそこに向かったと


 考えられる。」


「最後に、


 予想していた中でも、最悪な展開になったということと、


 相手は僕よりも数段上ということがはっきりした。」


少年は、今できる最大の情報収集をし、顔を上に向ける。


その顔は今から、買ってもらったおもちゃで遊ぼうとしている少年のようだった。


「僕よりも、数段上の相手にどこまで通じるのか楽しみだ。


 どんな、パフォーマンスを見せてくれるのだろうか。」


そんなことを言いながら、少年はニコッと笑った。


ほぼ身一つで部屋を出て、部屋の鍵を


夜ご飯の時の少しにぎやかな雰囲気は見る影もない、静寂につつまれた食堂の


机に置いた。


そして、宿を出た。


空は、どんよりとした暗い曇り空だった。


この大通りには主に冒険者が利用するため、


どの店も暗いとまではいかなかったものの、


ほんの数建しかあかりはついていなかった。



先ほどまでいた宿と同じようにつつまれたしんみりとした雰囲気を


できるだけ破壊しないようにしながらも、颯爽と大通りを全速力で走った。




タッ、タッ、タッ、タッ、タッ…


一定に聞こえる足音。


タッ、タッ、タッ、タッ、…トッ。


その中に聞こえる軽やかな着地音。


少年は虹の瞳イビルアイの影響でわずかに照らされる道を進む。


虹の瞳イビルアイで調べた最短距離を進むため、


さまざまな建物を飛び越えたり、それらの屋根を走っていた。


しばらくすると、地面を打ち付ける音が聞こえ、それはだんだんと大きくなる。


薄い茶色だった地面もだんだんと濃くなってきた。


周りの空気が白くなる。


はぁ…、はぁ…、はぁ…。


次第に息が荒くなっていく。


それに共鳴するかのようにさらに雨がひどくなっていく。





そして、ついにサーチペンダントの魔力とのつながりが


途絶える少し前までにあったであろう場所を通過する。


そこを通過するが、やはりと言うべきか、


相変わらず、その村の周辺では虹の瞳イビルアイは弾かれる。


それから、何よりも霧のようなものがかかっていて、


自分の周囲は、見えても半径3m程度だった。


「この霧のようなものも敵のものだろう。」


まだ、村に着いていない状況で少年は推測する。


「もしかしたら、敵は霧のようなものを無視して全体を見られるかもしれない。


 いや、僕よりも数段上なのだから、その可能性は十分考えられる。」


「そして、おそらく、もうすでにアザフェルは敵の手に落ちている。」


「…問題は敵とアザフェルがどこにいるのかだが、


 たぶん、村の中央部分にいるだろう。


 村を片付けやすく、外部からの侵入があってもすぐに攻撃を受ける心配もない。


 また、霧の中、まっすぐに進むのは難しいため、打ってつけだろう。」


少年はスピードを若干緩め、感覚を研ぎ澄ませ、周りに注意を払う。


しかし、少年は足を止めることはなかった。


はぁ、はぁ、はぁ。


さっきよりも、さらに浅く息を吐きながらも、


少年は休むことなく、走り続けていた。




そして、次の瞬間、霧のようなものが消え、


虹の瞳イビルアイも弾かれなくなった。


すぐに、虹の瞳イビルアイで村の中央付近を探すと、


予想通り、竜の少女がいた。


竜の少女は食料庫に向かっていた。


その周辺には人やものの影は見られず、その竜の少女しか見られなかった。


「去ったか。」


そう言った少年は表情には安堵と、悔しさの両方が表われていた。


しかし、少年はすぐさま、いつものポーカーフェイスに戻り、


竜の少女を隅々までを確認する。


「まあ、外見上でしかわからないが、ひとまずは大丈夫だとみていいだろう。」


少年はほっと息をつく。


「だが、脳内や記憶などまでは分からない.


 先を急ごう。」


そう言って、少年は引き続き、走り続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る