第26話 見物客

現在は、時間を遡って、作戦行動についての質問タイムの時だ。


竜の少女は師匠に質問をする。


「それよりも、さっきこっちを誰か見ていませんでしたか。


 場所や人物の特定まではできませんでしたが…。」


「ああ、あの見物客か、別にあれはいい。


 あれは放っておいて構わない。」


「ああ、やっぱりお気づきだったのですね。」


「ああ、作戦が終わったら、そのうち分かるだろう。」


「あ!」


竜の少女から背を向けようとした少年はびっくりした顔で振り返る。


「なるほど、あの時、師匠がイライラされていたのは


 あの人の場所や人物の特定ができたので、


 楽しそうにしていたのに、水を差されたからですね。」


「謎が解けてスッキリです。」


少年はあきれ顔で竜の少女を見る。


「ああ、そうだが、まだ、そんなことを考えていたのか。」


「あれ、ダメでしたか?」


竜の少女はいつもどおりの天然さで言葉を返す。


そうして、少年はあきれ顔をキープしてながら言う。


「まあ、いい。 行くぞ。」


「はい。」






そして、今にいたる。



その瞬間、執事服を着た青年が少年のすぐそばに現れた。


「申し訳ございません。」


「まあ、別に構わない。」


「それよりも、この男を城へ。僕の部屋に連れ帰ってくれ。


 我は少し用事がある。


 あと、その男は僕の護衛にする。守ってやれ。」


執事服を着た青年は少年に尋ねる。


「お父君へのご報告はどうされますか。」


執事服を着た少年は


王から監視の意味も込めて第七王子の執事として付いているので、


その報告の内容のことを指しているのだろう。


「それは、ノアール・ルシファー…いや君が


 僕に忠義を尽くしてくれると受け取っていいのかな。」


「はい。その通りでございます。」


執事服を着た青年は笑顔で即答する。


「そうか。」


「それと、お父様には、僕はいつもどおり、ふらっと出かけているとでも、


 報告しておけばいい。まあ、それ以外にいい案があれば、それでも構わない。」


「はっ、


 御心のままに、我が主at the mercy of my lord


執事服を着た青年はそう言って、


優雅に、まるで絵画のワンシーンとして描かれるようなお辞儀をして


消えた。


いや、消えたというのは、厳密に言うと正しくない。


一般人には目に追えないような速さで去ったため、


ここには私以外に誰もいないが、そういうふうに見えるだろうということだ。





執事服の青年が去った後、少年は近くの宿屋を探し、歩く。


そして、しばらく歩くと大通りに出て、そこで宿屋を見つけた。


外装を見た感じ、ごく一般の宿屋だ。


3楷建てで、確かに建物自体は古い。


中をパッと見る。綺麗とはいいがたいが、清潔にしている方だ。



少年はここに泊まることを決め、その宿屋の扉を開ける。


それから、おばさんがいるカウンターまで進む。


懐疑的な目を向けられるが、誰も絡んでくる人はいない。


「すまない。ここに、泊めさしてくれ。」


「おや、おチビちゃん。 どうしたんだい。」


おばさんは悩みながらも聞いてくる。


「少し、いろいろあってね。


 個室にして欲しい。1泊いくらだ。」


「1泊2銀貨、食事は1食5銅貨で前払いだが、


 おチビちゃん、金は持ってるのかい。」


おばさんは心配そうに聞いてくるが、そんなことはお構いなしでお金を出す。


「ああ、それは心配ない。


 では、1泊と夜ごはんに1食頼もう。」


帝国を含めた、王国付近の多くの国では同じ通貨が使われている。


前世の国の通貨でいうと、100円で1銅貨と同じくらいだが、


若干、こちらの国々のほうが物価が安い。


また、こちらの国々では、


銅貨、銀貨、プラチナ金貨、金貨、アダマンタイト金貨が使われている。


10銅貨で、1銀貨、10銀貨で1プラチナ金貨、


100プラチナ金貨で1金貨、100金貨で1アダマンタイトという風な感じだ。


「分かったよ。」


そして、おばさんは少年に鍵を渡した。


「上の階のこの番号の部屋を使っておくれ。


 夜の食事は5時から8時の間だから、遅れないようにね。」


「ああ、分かった。ありがとう。」




少年は鍵を受け取り、階段を上って部屋に入る。


すると、その瞬間、ふらっと上体が傾く。


しかし、少年はギリギリで足を踏ん張る。


ここで、そのままふらっと倒れてしまいたかったが、それはできない。


弱みは決して、誰にも見せない。


弱みは、相手に付け込ませる隙を与えてしまう。


万が一に自分が死んだり、


守るべきものが壊されたりしないようにしなければならない。


そして、荷物と言えるようなものはほとんどなかったため、


荷物を部屋に置くこともなく、


ローブを着たまま、ベッドにダイブする。


「はあ。」


それから、寝転がったまま、弟子である竜の少女がいるところを見るべく探す。


虹の瞳イビルアイ


まだ、完成途中のため、大雑把な位置しか把握できないが、


少年は自分の魔力をある程度持ったものの場所を把握することができる。


竜の少女には、少年の魔力を込めたペンダントを持たせている。


少年はそれをサーチペンダントと呼んでいる。


そのため、その魔力とのつながりで割り出した大雑把な位置の範囲を見ていき、


探していく。



「地味な作業だが、頭を使わないし、あまり疲れないぶん、


 まだマシだな。」


少年はそんなことをつぶやくが、


竜の少女がいれば、


「ものすごいスピードで確認しているでしょうに。


 頭を使わないなんて…。」


と言って、「うがががががが」となることはほぼ間違いないだろう。


そして、少年は竜の少女を見つける。


その頃、ちょうど空中散歩スカイダイビングの真っ最中だった。


「なるほど。確かにこの方法にこの速さであれば、


 ギリギリ、この日中に帝都の食料庫を燃やせるだろう。


 まあ、順当にいけばだが…。」


「僕もぶっ飛ばすという案自体は思いついたが、


 基礎運動能力の比較的高い協力者が必要だから、


 あまり視野に入れていなかった。


 しかし、ゴルフのように遠心力を使えば、わずかだが可能性は高まる。」


「するべき説教が長すぎて忘れそうだが、


 その前にこのことは褒めなければならないな。」


いつもどおりの表情の下には見る人によるのだろうが、


うれしそうな顔が見え隠れする。


そんな気がするのかもしれない。


そして、少年は何十時間ぶりかの眠りにつくのだった。


英雄の彼が死んで、彼に託されたものを守らなければならなくなったあの日から


寝ていない体を休めるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る