第25話 宴の終わり

そんな、半分あきらめかけた俺…いや私に


おばあちゃんの声が響いた。


優しい声が。


「頑張れ。」


ただその一言だけだった。


もしかしたら、夢だったのかもしれない。


いや、現実的に考えてそうだろう。


でも、それでも、おばあちゃんの声にいつも素直になってしまう。


おばあちゃんに期待されることが嬉しくて、


仲間に気にかけてもらえることが嬉しくて、


自分という存在を認めてくれる帝国が好きだ。





だから、答えはただ1つ、何をしてでも、一騎打ちで勝ってやる。








閉じていた青年の瞳が開かれる。


その瞳はとても力強い瞳だった。


「ああ、その瞳はとてもいい目をしている。」


少年は見透かすような口ぶりで言葉を続ける。


「今、君の心を変えてくれた人たちを大切にするといい。」


扇子が青年の首にさらに近づく。


それに、青年は自分から近づく。


そして、青年の頭が少年の頭にぶつかる。


ガチン。


人と人とがぶつかったとは到底思えないような音が響く。


それと同時に扇子が青年の首にあたる。


バシッ。


両者は衝撃で飛ぶ。


だが、床に倒れ込んだのは1人だけだった。


もう1人は片膝をつく。


それから、ズキズキと痛む頭を押さえながらも立ち上がる。


「…痛いな」


とつぶやいて。



そして、一騎打ちは終わった。少年は気絶した青年を抱えて


巻き込まないように部屋の隅に移動させる。



「さて、掃除再開だ。」


そう言って、ニコッと笑った。


そのあと、一方的な殺戮が続いた。


少年は休むことなく、残り約3900人ほどを片付け続けた。


約4000人の兵士たちが1人の少年に約1時間で片付けられたのだ。


「はい、終わり。


 掃除終了。」


死体の海の中に立つ1人の少年が終わりを告げた。




少年は階段をのぼる。


その階段に続くのは8階の通路だった。


少年は通路を走り続ける。


そして、あっという間にたどり着いた。


一番奥の部屋に。




その部屋の入口を開ける。


その部屋には、1人の優しそうな雰囲気のおじいさんがいた。


少年はゆっくりと歩みを進める。


おじいさんは何もせずに、ただ少年をじっと見ている。


少年がおじいさんの前に立つ。


「君が、ここの一番偉い人かな。」


「ああ、そうだ。」


「帝国はなかなか、いい人材を持っているんだね。


 君は優しそうな雰囲気をしながら、部下がこんなに殺されたのに、


 激昂せずにただ、椅子に座っている。


 君の瞳は覚悟を持った人の目だ。」


少年はおじいさんを見て、分析する。


「昔、そんなことがあったのかな。」

 

おじいさんは、ピクリと体を動かす。


「ああ、別に君と事を構える気はない。


 君は上司にこう告げろ。」


「ラグナ王国に手を出そうというのであれば、


 この僕、ジーフがその喧嘩をかってやる。」


「…とな。では、失礼。」


少年はおじいさんにそう言うと、颯爽とこの場を去っていった。


おじいさんは、体中に入った力を抜く。


「なかなかの化け物が来たな。」


「帝国は少しまずい虎を起こしてしまったやもしれん。」


そう言って、天井を見上げる。


窓から入ってきた太陽の光が天井を照らす。


もう、太陽が真上まで上り、昼になっていた




少年は、8階の部屋から飛び降りる。


そして、もう一度、軍の本拠地に戻り、1階でフリートを回収したのち、


担ぎながら、軍の本拠地から離れる。


一応、尾行がついてきていないことと、


近くにがいないことを確認する。


そして、口を開く。









「いつまで、見ているつもりだ」

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