第23話 ソラリ・ドグマ

俺は都市部をぶらぶらと歩いていていて気づいたら、広場にいた。


広場のような、人が多い場所は苦手だ。



よく、人は広くて明るい家に住みたがる。


しかし、俺には全く理解できなかった。


俺は、


おばあちゃんと和やかな日々を暮らせるような


少し狭くて、こぢんまりした家で十分だと思った。


そんなことを話すとおばあちゃんはきまって俺の意見に賛成してくれた。


いつか2人でそんな家で過ごせたらいいなって2人で言い合っていた。



そんなことを思い出しながら、俺は足を早める。


なんだか、そこに行かなければならないような気がして。


やっと広間の中央の祭壇が見える距離になった。


そこにはたくさんの野次馬がいて、


野次を飛ばしていた。


「消えろ。」


「死ね。」


「もう死んだか?」


「しぶとい奴だな。」


「俺、ああいうの好きなんだよな。」


「お前、趣味わる。」


「まあ、別に俺も嫌いじゃないけどな。」


他にも、石ころを投げる人もたくさんいた。






そこで、俺は再会した。


おばあちゃんと。


俺が絶対に望まぬ形で。



おばあちゃんは祭壇に貼り付けにされて処刑されていた。


俺が会ったときには、おばあちゃんの姿は見る影もなくなっていた。


俺を優しくなでてくれたであろう病気で黒ずんだ肌。


いや、長い間、水浴びもできなかったからかもしれない。


そして、いつも明るく赤みを帯びたさらに瘦せこけた頬。


幼い頃は自分をだっこしてくれた人とは思えないような細すぎる手足。


それから、いつも俺に向けてくれたきれいな笑顔だったであろう


原型もわからないような膨れ上がった顔。


俺は、ゆっくりとおばあちゃんだった死体に近づく。


おばあちゃんの傍に早く駆け寄りたいのに、体が言うことを聞かない。


「……おばあちゃん?」


俺は思う。


なんか今日の俺どうかしている、と。


なんか突然走りだしたと思ったら、突然止まって。


早くおばあちゃんに「おかえり」って言いたいのに。


体がおばあちゃんに近寄ることを拒否するように


おばあちゃんに近づけば、近づくほど動きが遅くなる。


せっかく、おばあちゃんに会えたっていうのに、全然嬉しくない。


どうやって、息を吸えばいいかわからなくなる。



「うげぇろヴぇろごっげろごろがっ。」




こんなの夢に決まってる。


ねえ、おばあちゃんいつもどおり、「ただいま」って言って、


優しく俺の頭をなでてよ。


「ねえ、おばあちゃん、聞いてよ。


 村に引っ越すお金がたまったんだ。もう大丈夫。一緒に村に引っ越そう。


 静かに2人で。」




しかし、現実は残酷だ。


おばあちゃんのもとにやっとたどりつきそうなときに、警官が止めに入る。


その警官たちを見もせずに押しのけて、おばあちゃんに抱きつく。


おばあちゃんはとても冷たかった。


混乱する中、俺の中をグルグル駆け巡るのは


「なぜ」という疑問だけだった。





おばあちゃんはソラリ・ドグマという元貴族だったらしい。


おばあちゃんの旦那さんとおばあちゃんは幸せに暮らしていた。


しかし、ある日、彼らが管理していた領地に王子が他の貴族を連れて入ってきた。


その王子と貴族はとても態度が悪く、傲慢だった。


平気で、平民から食料を巻き上げようとするので、


見かねた彼らは我慢ならず、平民たちをかばってしまった。


そこからは、地獄だった。


おばあちゃんの旦那さんは不審な死を遂げたが、


ほとんど調査されることなく、事故死と判断された。


そして、先日王子が連れてきた貴族たちに領地は渡され、


おばあちゃんは追い出された。


何の前触れもなく。


おばあちゃんはせめて民だけはと守ろうとしたが、


結局、財も全て没収され、スラム街で暮らすようになったそうだ。




最後まで、おばあちゃんは善人だった。


善人であれば、利用される。


この死刑も、おそらく、


ろくでもない貴族の犯罪のもみ消しにちょうどいいと思って実行されたものだろう。






おばあちゃんに近寄っていた俺は警官からはがされ、


追いかけられたが、走って逃げた。


しかし、逃げたところでおばあちゃんと住んでいたところ以外、


帰る場所はなかった。


それでも、帰りたくなかった俺は都市部とスラム街の境らへんを


ふらふらとさまよっていた。





そこで、俺は50代半ばの一人の男に出会った。


俺は知らなかった。


その男と出会いがこれからの俺にどれだけ影響するかを。

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