第22話 セイちゃん

俺はラグナ王国で生まれた。


俺はものごころがついたころには両親はおらず、


その代わりに年寄りでヨボヨボのおばあちゃんがいた。


俺たちは、スラム街の中でも特にとても人間が生活できるとは思えないような


酷いところに住んでいた。


おばあちゃんは、


生まれたばかりの俺を都市部とスラム街の境に近いところで拾ってくれたらしい。


なぜか、おばあちゃんはこんな酷いところに住んでいたのに、


とてもいい人だった。


自分がどれだけおなかがすいていても、


周りの人たちと違って人の物をとったりすることはなかった。


そして、おばあちゃんは身を粉にして働いていた。


しかし、おばあちゃんは俺のことを気遣い、


自分が倒れて俺が1人にならないように自分の体調管理もしっかりしていた。


ある日、俺はおばあちゃんに聞いた。


「おばあちゃんはどうして、みんなのように他の人の物を取ったりせずに、


 働いてるの?」


おばあちゃんは俺の頭を優しくなでて教えてくれた。


おばあちゃんが付けてくれた俺の名前を呼びながら。


「セイちゃん、みんなのように他の人の物を取ることは悪いことなの。


 みんな必死に生きてるから、仕方がないという人もいるけれど、


 私はそうは思えないわ。」


「みんな必死に生きているからこそ、


 その必死に生きている人から


 自分で頑張らず、


 その人が必死に頑張って手に入れた物を横取りするのはいけないわ。」


「セイちゃん、おばあちゃんと約束してくれる?


 セイちゃんは人が必死に頑張って手に入れた物を横取りしませんって。」


「分かったよ、おばあちゃん。


 俺は人が必死に頑張って手に入れた物を横取りしません。」


「うん、うん。ちゃんと守るんだよ。」


おばあちゃんは、俺にそれに以外にもたくさんのことを教えてくれた。




それから数年後、おばあちゃんと一緒に俺が働きだした頃、おばあちゃんは倒れた。


おばあちゃんのためにも、俺は必死に働いた。


おばあちゃんの病気は悪化はしなかったが、良くもならなかった。


そして、俺がひそかに貯めていたお金がやっと村で暮らせるくらいになった。


その日は、ルンルンな気分だった。




しかし、家に帰るとおばあちゃんはいなかった。


代わりにメモ書きが残されていた。


そこには、おばあちゃんの優しく丁寧な字で


「少し出かけてきます。


 すぐに帰ってくるから、1人でもきちんと生活していてください。


 もし、何かあったら暗号付きのタンスの中にある指輪を売ってください。


 私が帰ってくるまで愛しいセイちゃんが元気でいられるように願っています。」


と書いてあった。



俺はその言葉のとおり、毎日頑張った。


いつか、


おばあちゃんが帰ってきたときに「おかえり」って元気な声で言えるように。


おばあちゃんが帰ってきたら、きちんと1人で生活できたよって言えるように。


おばあちゃんが帰ってきたら、「おばあちゃん、遅いよ。何してたの」って


笑って怒れるように。


おばあちゃんが帰ってきたら、あったかいご飯がすぐに出してあげられるように。





しかし、おばあちゃんが帰ってこない日は何日も続いた。


毎日、仕事が終わったら、急いで走って帰るのがここ最近の日課だった。



俺はその日も急いで家に帰った。


もしかしたら、おばあちゃんが帰ってきていて、


おなかをへらして待っているかもしれないと思いながら。



しかし、その日もおばあちゃんは帰ってきていなかった。


力が一気に抜けたように玄関で座り込んだ。


頭の中はおばあちゃんでいっぱいだった。


俺はこんな暗い顔でいるとおばあちゃんに怒られると思った。


そのため、心の中の暗い感情を追い払うため、久しぶりに都市部を散歩していた。


もちろん、スラム街の子だとばれるとまずいので、ローブで身を隠しながら。





そして、その日、俺は思わぬ形で再会する。









死体になってしまったおばあちゃんに。

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