第20話 殺戮の宴

その言葉で始まった。


まず、奥にいる多くの兵士に守られている魔法使いの方に足を向ける。


すると、兵たちは一斉に襲い掛いかかる。


多くの兵からの攻撃を


ひらりひらりと舞うように避ける。


それと同時に多くの兵の喉を突き刺しながら。


そして、どんどん魔法使いに近づいていく。


魔法使いは恐怖のあまり、後ろに引き下がる。


「はあ。やはり魔法使いは詠唱に時間がかかり過ぎる。」


ある程度、魔法使いに近づいた少年はそう言って、


処分した倒れる兵の死体を踏み台にして宙を舞う。


そして、魔法使いの頭上に到着し、扇子の親骨で首をたたき、失神させる。


「その子には、僕の特別教育を受けてもらわなければいけないからね。」


少年はきれいな着地を決め、次に向かうのだった。



そう、その魔法使いは、


この瞬間、少年の特別教育という名の拷問を受けることが決定したのだった。





この部屋に現状でいる魔法使いは2人。


もちろん次に向かったのは、もう1人の魔法使いだった。


向かってくる兵たちの首が舞う。


まるでペラペラの紙を切り裂くようだった。


一瞬で、少年が魔法使いのもとに移動する。



しかし、魔法使いはすでに詠唱が終わったようで、


周りで護衛をしている兵たちを下がらせる。


そして、こちらに雷の魔法を放った。


その1直線に向かってくる光が少年を襲う。


とても速く、瞬きの一瞬で目の前まで来た。


「これで、もう終わりだ!」


勝利を確信し、歓喜の声をあげる。





しかし、少年が止まることはなかった。


「…えっ」


歓喜の声は実現することはなかった。


少年は魔法使いの目の前にいた。


ゆっくりと、自分の首に扇子が食い込んでいく。


そして、首がまた1つと飛んだ。



少年は振り返ることなく、淡々と言い放つ。


「確かに少しだけ早いけれど、所詮それだけ。」


「君はあまり魅力を感じないから、もういいよ。」




あっけにとられている伝令役の兵が


慌てて上司に報告しに行こうとする。


すると、すぐそばで声が聞こえた。


「君が伝令役?」


少年の声だ。


「…そんな…バカな…」


確かに、さっき自分との距離が50mほどあったはずなのに。


「うーん、これでも風で兵たちが飛ばないように気をつけているのだが…。」


伝令役の兵はふらっと倒れる。


「あれ? 僕はまだ、何もしていないんだが、まあいいか。」


そして、遠ざかっていく意識の中、伝令役の兵は確かに聞いたのだ。


「まあ、どうせ。処分する予定だったから。」


という少年の冷たい声を。



それからはとてもスムーズに事が進んだ。


少年は次々と兵の喉を突き刺し、


やがて部屋の中にいる兵が残りが30人くらいになった。



そこで、1人の青年が隣の部屋からやってきて、名乗りをあげた。


部下たちが止めようとこちらの様子を伺っていることから、


今までは部下たちに引き留められて、上司の指示があるまで待機していたが、


兵たちがどんどん減っていき、我慢ならなくなったというところだろう。


「私はフリート、貴殿に一騎打ちを申し込みたい。」


その青年は影の少ない煌めく銀髪で、瞳は少年の持つ扇子のような紫色だった。


30代前半といったところだろう。


この世では寿命が長めなので、30代でも青年と呼ばれるのだ。


少年は自分のことを棚にあげて若いな思った。




少年は自分の持つ扇子に目を落とす。


そして、考えずにはいられなかった。


彼も成長したら、目の前の青年のような姿だったのだろうかと。



少年を見て青年は不思議そうな顔をする。


「あの、大丈夫だろうか。」


「ああ、大丈夫だ。


 すまないな。少しばかり、考え事をしていてね。


 君と少し似ている人がいてな。」


少年は遠くを見るように目を細める。


「そうか。


 まだ聞いていなかったが貴殿の名前を聞こう。」


「そうだったな。…僕はジーフだ。」


「そして、さっきの件だが、受けよう。


 そんなに、長い時間はかけられないが、少しばかり遊ぼうじゃないか。」


そんな風に、少年は減らず口を叩くが、決して油断はしていなかった。


「はは。その口を黙らせてやろうではないか。」



青年は剣を構え、今にも始めようとしている。


しかし、そこで少年が待ったをかけた。


「その前に、この一騎打ちでの要望を聞いておこう。」


「そうだな。では、私が勝ったら貴殿には私の部下になってもらいたい。」


「分かった。もし、僕が負けたらそうしよう。


 そして、僕が勝ったら、君は僕のものだ。それでいいかな。」


「ああ。」


「それと一騎打ちのルールだが、どうする?」


「どちらかが降参するか、死ねば終わり。


 ルールはなしでどうだ。」


「うん。それで、構わないよ。」





そうして、一騎打ちが始まった。

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