第18話 嵐の後

竜の少女は周りをぐるっと見渡す。


そして、呆然とする。


ほぼ全壊した、たくさんの家、


それにそこら中に飛び散った大量の血、


それらのただならぬ物たちを見て。




そして、竜の少女は今までを思い出そうとする。




あの脳筋なおじいさんにいきなりぶっ飛ばされて、


空中散歩スカイダイビングが始まったと思ったら、


急降下して、城壁に激突。


激突したのちに歩いていたら、やっとこの村が見えて来て…


それで…




そうここからが問題だ。


おそらく、今ここにいるということは、


それからここまで、歩いてきたということなのだろうが、


その記憶があまりないのだ。


確かに、それまでの記憶はしっかりしているし、そこからの記憶もおぼろげだが、


あるにはある。



竜の少女ははっとする。


「これは、もしや…


 記憶喪失ですか!?」


そこから、竜の少女の独り言は続く。


「しかし、おぼろげですが、記憶があるということは記憶障害?」


「‥‥‥‥。」


それから、さらにブツブツとつぶやいて、


ようやくひと段落がついたのか、いつもどおり、


「うがががががが」


と声をあげながら、翼をはためかせるのだった。


彼女らしく、すぐ近くで拾ってきた「アルメニア」をそっと添えて。





それから、少し歩いたところにあった食料庫を燃やす前に


他の瓦礫に燃え移って村中火の手がまわって大火災とならないように、


「よいしょ」という掛け声とともにせっせと移動した。



その炎は強い風の影響を受けて、大きく揺らめいていた。





竜の少女は崩れた家の瓦礫をお借りし、腰を掛け、


夜が明け、すっかり明るくなった空を見上げる。


そして、無意識に青空に手を伸ばしていた。


「なんだか、大切なものを手放してしまったような気がするのですが…。


 どうしてでしょうか。」





当然、それに対する返答はない。


その答えに、答えられる者たちは、もう遠いところに逝ってしまったのだから…。




竜の少女は青空に伸ばしていた手を降ろし、後ろにたおれた。


ただただ美しいだけの青空を見上げながら、息をつき、一休みしたのだった。

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