第11話 交渉

「おそらく先に、帝都の食料庫の方に行った方がいいですね。」


そして、少女は歩き出そうとする。


「あれ、私、師匠にこの軍の本拠地の外部のことはを聞きましたけど、


 軍の内部のことを聞くのは忘れてました!」


「まあ、なんとかなりますかね。


 と言うか、師匠、絶対にこのこと気づいてましたね。」


「師匠のそういうところがあの人を師匠にしていて、


 すごく心配なんですよね。」


竜の少女は良くも悪くも


自分のことよりも、他人のことを心配するモンスターだった。




「…それで、どうしましょうか。」


「私がどれだけ頑張っても絶対にこのままではここから帝都までの往復だけでも、


 最低でも4日はかかってしまいます。」


この帝国は、いくつもの軍基地を持っていて、


戦争の準備が始まった今、軍の本拠地は国境の近くに構えられている。


そのため、この広大な領地を持つ帝国はとてつもなく広く、


この軍の本拠地から王都まではおよそ2500㎞もの距離がある。


「うーーーーーん。」


竜の少女はそんなかわいい声で唸りながら、


立ち向かってくる兵たちを一瞬で仕留めていく。




「うん?」


その時、竜の少女は自分の手が止まっていることに気づいた。


ふと意識を戻すと、そこには70代くらいのおじいさんがいた。


「あのおじいさん、お名前はなんと言いますか。」


竜の少女は声をかける。


「オーバ・チュアと申す。」


「そうですか。では、処分しても大丈夫ですね。」


「お前は?」


「‥ゼファーです。」


「分かった。」


そして、おじいさんは刀に手をかける。


竜の少女もペンダントに手をかける。


「はあ!」


慈悲の死メルシーインダクション


「くっ。」


おじいさんが胸をおさえる。


竜の少女は、冷静に分析する。


やはり、このおじいさんは強い。


師匠に渡してもらったペンダントには、大量の魔力が込められている。


そのため、慈悲のメルシーインダクションという燃費の悪いスキルを


私の得意な魔力調整で補うようにしているとはいえ、


このおじいさんを処分するのは骨が折れる。


まだ、処分しなければならない人も出てくるだろうし、


切り札があるとは言え、それは後に残しておきたい。


竜の少女は考えた結果、おじいさんに声をかけた。


ペンダントから手を離し、おじいさんに近寄った。


「オーバ・チュアさん、私の方につきませんか。」


「断る。」


「そうですか。」


「しかし、私がここまでやってしまった以上、次の戦争は延期になるでしょう。


 そして、あなたは戦うのがお好きなんですよね。


 戦いに己の全てをかけるくらい。」


竜の少女はあきらめず、そのおじいさんに語り続ける。


「そうなれば、おのずと答えは決まってくるはずです。


 どうでしょうか。


 私たちは、あなたがより強くなれる知識も戦う場も用意して差し上げます。」


しかし、竜の少女はおじいさんの心がはまだ揺らいでいるように見えた。


「あなたにとっては、些細な事かもしれませんが、


 何よりあなたの心はとても純粋でいて、優しい人です。


 私はそんな人に生きていてほしいと思うのです。


 まあ、私の個人的な感情なので、師匠には怒られるかもしれませんが…」


そう言った彼女の顔はとても美しかった。







今までの73年間が思い出される。




「分かりました。そちら側につかせていただく。」 

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