第13話 スカイダイビング

青々とした美しい空がすぐ目の前にある。


とても綺麗な穏やかな空だった。


今は、なにもかも忘れてここにいたい。





そんな中、その雰囲気をぶち壊す声がその空に響く。


「うがががががが」


竜の少女は宙にいた。


比喩ではなく、そのままの意味で。


そう、竜の少女はただいま空中散歩スカイダイビングの真っただ中であった。


「うおおおおおお。」


前からくるすごい空気抵抗を感じながらも、


今にもばらばらになりそうな体を引き締める。


心に浮かぶのは「こんなはずじゃなかった。」ということだけだった。


ほんの1分前までは普通に地上近くを飛んでいたのに‥‥。




どうしてこんなことになったのかというと、ほんの2分前にさかのぼる。





「分かりました。


 あなたのこれからについての説明は後程詳しくという感じになりますが、


 現在の私たちの状況を説明しておきます。」


竜の少女は手短に要点をきれいにまとめておじいさんに話した。


竜の少女はおじいさんの反応を見るため振り返る。


ほんの少しだけ、早くしゃべりすぎたため、大丈夫だろうかと思いながら。


すると完全に予想外の結果を目にした。


なんと、白目になりながら、バク転やら、前宙やらをやり始めたのだ。


「大丈夫ですか⁉」


そこには、本気で心配して、駆け寄る竜の少女の姿があった。



どうやら、このおじいさんは


情報があまりに多くなると頭も体もおかしくなってしまう病気らしい。


情報量の多さに失神というのはまだかろうじてわかるが、


情報量の多さに体が勝手に動きだすというのは、理解不能だ。


そんな深刻な病気なんて…


と小さい竜の少女に勝手に哀れまれるかわいそうなおじいさんだった。


竜の少女はいわゆる脳筋というやつの、深刻な病気バージョンだと認識した。




竜の少女は気を取り直して、無理やり今までの説明をまとめる。



「つまり、


 ここから王都までの遠い遠い距離を


 どうやって早く進むかという問題が今出ています。」



そうして、ようやく戻ってきたおじいさんの最初の一言がこれだった。


「ならば、儂がそなたを鞘で打って


 帝都までとは行かないかもしれんが、


 その途中くらいまでは連れて行ってやろうか?」


‥‥‥。


2人の間に流れる長い沈黙。


そして、やっと意味を理解した、いや、理解はしたけれど、納得はできていない


竜の少女が先に口を開いた。


「…ええええええええ」


「…っ。なんじゃ、耳が割れてまう。」


「…あの、あなた、もう少し、休んでいた方がいいのでは?」


竜の少女の本気で心配した目がおじいさんに突き刺さる。


そして、その様子にすごい困惑を隠しきれないおじいさんであった。


しかし、そこはさすがは帝国の優秀将官というところで、


ひとまず置いておき、その作戦に出るため、準備へと移った。


「儂、実は結構、基礎運動能力だけは自信があるんですわ。」


おじいさんはそうやって、腰に携えてある鞘を出す。


そして、戸惑う竜の少女を鞘の手前に置き、勢い良く、スイングする。


「パコーン。」


「おお、さすが、儂、ナイスヒットじゃな。」








かくして、竜の少女の空中散歩スカイダイビングが始まった。

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