第9話 弟子

少年は、次の部屋に向かおうと地下を光のような速さで音もなく、駆け抜ける。


しかし、地下を出ようとした少年は突然足を止めた。


少年の目には、


地下と地上の部屋につながる階段の先にいる30人くらいの軍隊が映っていた。


足取りから、おそらく特別部隊かつ、少数精鋭のものたちだろう。


この軍隊の隊長の地位は高く、かと言っても、せいぜい大佐くらいだろう。


少年は、気づく。


「おかしい。


 ‥‥帝国側に作戦がばれたのか。」


「いや‥‥」


少年は冷静でありながらも、十分に考える時間もない。


手早く、さっとその他の半径1㎞を調べながら、少年はつぶやく。


「…その事については棚上げだな。」


カツ、カツ、カツ。


足音が響く。



レイピアが振り上げられる。


しかし、そのレイピアがその少年の首に届くことはなかった。


「なにっ⁉」


そのレイピアは停止していた。


少年の細く小さな人差し指によって。


その場にいた少年を除くすべての人に衝撃が走る。


…がそんなこともお構いなしで、少年は言う。


「見つけた。」


その場にいた少年を除くすべての人が凍りつくような声で。


「あははは。最高だよ。」


その場がしばらく、静まり返った。



……。



沈黙を破ったのは、軍隊の隊長のような男だった。


「き、貴様! な、何を笑っている‼」


少年は煩わしそうにその軍隊のほうをちらっと見る。


「ああ、すまなかったな。


 では、さようなら。」


ローブをさっとめくる。


その中から、現れたのは竜の姿をしたとても小さなモンスターだった。


そのモンスターは水色で、大人の手のひら程のサイズだった。


「…ぷっ。…ぷっ…ぷぷぷ。」


声を潜めながら、笑う人が続出した。


まあ、さすが少数精鋭っぽいため、


戦闘準備の体制は変えず、すぐに動ける準備もできているが。


その準備も意味はないのだけれど…。


「あの、初めまして。アザフェルです。」


「すみませんが、師匠が少しお怒りになっておりますので、


 早めに処理させていただきますね。」


「うん? 僕は怒ってないよ。」


「えっと、じゃあ、イライラしていらっしゃるのでは?」


「うーん。人によってはそっちの方がイライラするんじゃないか。」


「そうですかね。」



「おい。いつまで、のんきにおしゃべりしてるつもりだ。」



男の明らかにイライラした様子を見て、これがイライラするであれば、


さっきの師匠の様子では怒っていないのではないかなどと


のほほんと考え始める竜の少女であった。


 

「あ。そうだった。」


「あ、そうでしたね。」



竜の少女周りの雰囲気が一気に変わった。


その竜の少女は静かに告げる。


慈悲の死メルシーインダクション


「では、みなさま。さようなら。」






これは、余計な話だが、


竜の少女は戦闘中にも関わらず、まだ師匠がイライラしていたのか頭の中で考えていた。


「…やはり、あれは私の見間違いだったのでしょうか。


 しかし、…でも‥‥あれは…」


という感じだった。



そして、そんな弟子の様子を見て、


その師匠は不安半分、あきれ半分といったところだった。


…というのはもっと余計な話だった。

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