第7話 化け物

大男は、呆然と自分の体からあふれる血をだまって見るしかなかった。


そんな中、大男は「なぜ」と思わずにはいられなかった。


「うん?なんで、そんな不服そうな顔をしているの?」


少年は、年相応の可愛らしい顔でキョトンとする。


「だって、約束どおりに怪我は治してあげたし、一思いに殺してあげたのに。」


「痛さ、あんまり感じなかっただろう。」


そう言って、少年はもう聞こえていないだろう大男に話しかける。


「でも、君と話すのももうおしまい。」


「さて、どこに処分しようか。」


少年は、部屋中を見渡す。


「よし、面倒くさいから魔力だけ吸い取って、これは燃やそうか。」


そう言って、少年は大男を持ち上げ、人差し指から出る炎で焼く。


少年は炎を覗き込みながら、次の行動について、自分のプランとここまでのことを照


らし合わせながら、思考にふける。



大体のすり合わせが終わったころに大男に目を向けるとまだ焼け切っておらず、3分の2くらいしか灰になっていなかった。


「本当にこれ、大きかったな。」


少年はそんな感想をつぶやきながら、炎で焼ける大男を見続ける。


‥‥‥。






「ば‥‥け…もの」


「化け物が!!!!」


「‥‥化け物…

 近寄るな、近寄るな、近寄らないでくれー。」


異様な姿の怪物から、飛び散る血をたくさん浴びている自分。


湧き上がる悲鳴。


今、目の前からあがる悲鳴が遠くから聞こえているような不思議な感じ。


誰もがそんな自分を遠ざける。


誰もが自分を「化け物」と呼ぶ。


「化け物」


「化け物」


「化け物」


「化け物」


「化け物」


化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。化け物。‥‥





がばっ。


少年は炎で焼ける大男から手を放し、距離をとる。




………。





「化け物‥‥か。」




「今の自分とは関係ない。


 今の自分には必要のない記憶だ。」




少年の大きな瞳にしばらく切っていない前髪がかかる。




「スルト王子。あなたはとてもいい子ですね。」


「きっと、その力は人々を照らしてくれます。」


彼は、そう言って少年を抱きしめた。


少年にとっては、記憶にある唯一無二の温かい記憶だった。


その少年の目は不思議な色で炎のように燃えていた。





「いや、全ての記憶が僕にとって必要不可欠だな。」





そう、ぼそっとつぶやいた少年は、大男を拾って、再び炎で燃やし始めた。


ただ、その炎はさっきの炎よりもほんの少しだけ、あやしい光を放って見えた。






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