第6話 あめ
「…どうして、どうして…。どうしよ…どうしよ…どうしよう。」
大男は、少年を誘拐した時とは、明らかにキャラが変わっていた。
この世には、失敗をしたことがなく、順風満帆に人生を生きてきた奴はよくいる。
そういう奴は失敗を体験したことがないがゆえに、絶望を見たときにはすぐに壊れる。
この大男は、そういう奴の典型的なパターンだろう。
そして、この厳しい実力主義の帝国の中でも優秀な方なのだろう。
この大男はこの世界では実力主義と名高い帝国のおそらく、大佐もしくは中佐くらいだろうに心がもろすぎる。
多くの人々はこの大男の姿を見たら、かわいそうに見えてしまうだろう。
…だが、大男の目の前に降り立つ少年はそんなことを気にすることもなく、無慈悲に告げる。
「ああ、あのあめの話かな? うん。今までに食べたことのなかったよ。おいしかった。」
「…っ。…そんな。」
少年は思い出したように言った。
「まあ、普段ならあのあめの感想を言い合ってもいいんだけど、少ししくじってしまったしね。」
そして、少年はどこにあったのかきれいな透き通るような紫をメインとした扇子を取り出す。
「…さあ、早く吐いてよ。」
その少年は丸く、くりくりとしたお目目をいつも以上に大きくした。
そして、きれいな顔でニコッと無邪気に笑った。
「お前にかける無駄な時間なんて僕にはないんだよ。」
美しい扇子が、大男のみぞおちを遠慮なく貫く。
「…がはっ。」
「僕は気が長いほうじゃないから。早くしてね。」
「‥‥いやだ。いやだ。助けて。助けて。たすけ…」
扇子から、放たれた刃のようなものが大男の眼球を貫く。
「‥‥うわああああああ。」
「そんなこといいから、早く。」
少年は、扇子で肩をとんとんとたたいて大男の耳元でささやいた。
「大丈夫。教えてくれたら、すぐに治してあげるから。」
大男はがたがたと震えながらも、かろうじて声を出した。
「……ほ…んと…うで‥す‥か?」
「うん、本当だよ。約束、指切りげんまん。」
大男は、しばらく息を整えようと深呼吸をし、やっと喋れるようになった。
「…あの、話します。」
「ああ。落ち着いた?」
少年は、なにか作業をしていた。
しかし、それを止めるつもりはないらしく、それを続けている。
「…私たちがあなたさまを誘拐したのは…」
「ああ、もうそれはいい。さっきのは聞いていた。」
「…っ。まさか…。そんな…、ば‥‥け…もの。」
「本当は眠っているふりをしていただけなんだよ。
まあ、僕のことはいいから。それで?」
「ラグナ王国と帝国との戦争は4日後に始まります。おそらく、2日後に宣戦布告をして、その日の夜に王太子を誘拐し、その次の日に始まると伝えられて…」
「はい。ご苦労さま。傷口は治したよ。」
少年は、大男にそう言って微笑んだ。
「ありが…」
「ごっふ。」
大男は、自分の体からあふれる血をだまって見た。
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