第5話 誘拐

どれくらい眠っていたのか


景色がガラッと変わっていた。


見えたのは、いつも見ている城の中でもめずらしい狭めの自室のシンプルでありながらもきれいな白い壁ではなく、無機質な黒の古めの壁だった。


 「スコル少将、ラグナ王国の第七王子を連れてきました。」


その大男は、そう言って少し乱暴にその少年を縄で引きずりながら部屋に入った。


当然ながら、その少年は手と足を縄で拘束されていて、身動きが取れないようにされていた。


「よし、よくやった。どうせ、腐っても第七王子だ。第七王子がこんな簡単に誘拐されたとなれば、腐った王国貴族は慌てて事態の隠ぺいを謀るだろう。

 

 そうすることで、こちらから宣戦布告を受けた後に事態が発覚し、ラグナ王国は混乱に陥るだろう。そして、その混乱に乗じて一気に攻め込む。」


「さすが、スコル少将です。これで、我が帝国の勝利は間違いありませんね。」


「わははは。そうと決まれば、そいつは丁重に死なない程度にここで飼っておけ。戦争後の条約を締結する際の交渉に仕えるやもしれんしな。」


そうやって、がっちりとしながらも大男ほどは横に広がっていない50代後半くらいの男は豪快に笑った。


この世界の平均寿命は前世よりも比較的に長く、貴族ならばほとんどが魔力を持っているため、人によっては100歳になっても普通に元気な場合もある。


だから、50年代後半で少佐であるということはなかなか優秀なのだろう。


「そうですね。では、第七王子は地下2階の1番の部屋に移動させておきますね。それに、もうそろそろ薬が切れそうなので、その部屋に移動したら、暴れられても面倒ですし、薬もう一回飲ませときますね。」


「ああ、そうしろ。」



そうして、階段を下り、地下2階の1番の部屋に到着した大男はその少年に薬を飲ませようと少年に目を向けた。


「…うん? なんで、こいつ、笑ってるんだ⁉」


この薬はもちろん、ただねむらせるだけではない。


毒として人の生命の源とはいかなくても生命活動に関わる重要な要素である魔力を吸い取り、抵抗できないように体の機能を低下させる。


「…確かに、こいつは万が一にも殺したらマズイから、量は比較的少なめにしたが…。俺でも少なくとも体が思うように動かせず、表情も必然的に絶対に険しくなるはずなのに。」




「あはははは。」


すると、突然部屋中に笑い声が響いた。


大男は、すぐに部屋中を見渡す。


しかし、誰もいない。


「‥‥何が起こってる」


呆然とする大男の反応も無視して、笑い声はしばらく続いた。


「‥‥はーあ。本当に面白すぎるよ。」


その声の正体は大男のすぐ真ん前に現れた。








大男の目に映るのは逆さまにひっくり返った少年の顔だった。


「やあ、面白いショーをありがとう。僕の小細工も、驚いてもらえたかな?」

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