第4話 戦争の足音

他の国がこの好機を見逃すはずもなかった。


100年もの間、この国を狙う者たちの壁どころではないくらい邪魔な岩だった


この国の「英雄」が倒れたのだから。



空が眩しかった。


昨日は、この国の象徴たる英雄が倒れたというのにも関わらず、


この国は何も変わらなかった。


それどころか、昨日はどんよりと曇っていて雨がざあざあ降っていたというのに、


昨日の絶望が嘘だったかのようなそんな皮肉な天気だった。


まるで、昨日の絶望が嘘だったかのように思い込みたい自分のような‥‥。


そんな天気の中、この国の人々を見ながらも


浮かぶそんな思いを打ち消すように頭を振り、もう一度、人々を見渡した。


いや、さっきのこの国は何も変わらなかったというのは、少し間違いだ。


1つだけ、変わったことがあるとするならば、


他国からの間者が増えたということだろう。



「これは、近々荒れるかもしれないな。」



少年は、少し悲しそうに、しかしそれでいてどこか楽しそうに、


そして追い詰められたような必死そうなきれいな顔で笑った。



「そうですね。」


そんな少年の隣でただただ楽しげにつぶやく青年がいた。


その青年は、ノアール・ルシファーと言うスルトの執事だ。


その執事は、真っ黒な透き通るようなサラサラな髪に白い肌、


それに高身長でスタイル抜群の容姿端麗で、仕事も全て完璧。


そして、この城内ではめずらしくスルトに興味を示している人の1人である。


今のところでは敵とも味方とも言い難いが、


スルトに反抗することもなく、積極的にスルトの手伝けをする


スルトにとっては数少ないある程度信用できる使用人だ。


今回は、買い物(市場調査)の護衛としてスルトに同行している。


…とは言っても、ノアールはどちらかというと


父親である王よりの使用人であるから、腐っても王子である第七王子の


都合のいいお目付け役というところだろう。





やっとこの城付近の市場を一周できそうかと


少年とその隣にいた執事がゆっくりと最後の店へと足を進めていた。


城の周りといってもここまで来ると少し、薄暗かった。





次の瞬間、少年は頬に冷や汗がつたった。



少年の体が宙に浮いていた。


「なあ、坊ちゃん、この国の英雄が死んだんだろ。


 このままゆっくりしていていいのかよ。


 なあ、ラグナ王国、第七王子、さ、ま」


そして、ノアールともあっという間に距離を置かれてしまった。


少なくともそこらへんの間者と一緒ではないだろう。


「…お前は誰だ⁉」


「さあね。」


「答える気はないということかな。」


「逆に答えるとでも。というか、お前、今の自分の立場わかっているのか。

 

 今、この国は他国の間者でいっぱいだ。この数をどうするんだ。


 なあ、なあ。」


「ははは。


 まあ、所詮、臣下たちから気にもされてない第七王子なんてこんなものか。


 まあ、いい。大人しくついてきてもらおうか。」


「……」


「おい、どうした? 肩が震えてるぞ。

 

 ははは。 今からどこに連れていかれるかがわかるくらいには賢いんだな。


 まあ、だからこそ、側室の子だということを差し引いても

 

 こんないかにも傀儡にできそうなお前よりも他の奴を臣下たちは選んだんだな。」



大男は、そんな言葉で第七王子を罵りながらも、


その傍にいたなんとなく強そうな護衛が


あっけなくふり切れたことに違和感を抱いていた。


しかし、そんなせっかくのチャンスを逃すわけもなく、


第七王子の口に薬を押し込んでから、


早々に第七王子を脇の横に抱えて


その大男の部下たちが待つ祖国に向かって馬を走らせた。


そう、脇に抱えた第七王子には目もくれず…











「…しくじったな。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る