第26話 戦劇無双。幕を開けよ救世活劇の舞台
『
『女王』消えた
空間系
そのことから現代でも解明されていない『異界を繋ぐ
そんな『女王』には他にない特徴がふたつ。
ひとつは星獣を生み出す力。
卵生か胎生かはその異界によって変わり、生み出す数やその
ふたつめは脅威の隠伏能力。
『王』と違い『女王』はほとんど戦闘能力を持たない。
そのかわり自身を守る能力、隠れる能力に長けて、それも個体や異界の脅威度によって変わり、様々な能力で自身を守る。
様々な能力を持つ女王の中には空間を操る能力をもつ個体もいる。
『空間を操る』と聞くと厄介そうに聞こえが、確認された中では脅威になる個体は存在せず、その能力も長続きしない。
だから、『
同じ能力をもつ優秀なイッセイを同行させればなにかあっても逃げれるから大丈夫だと思ってしまった。
長く続く平和のせいで、昔とは稀人の質と人数が桁違いなせいで、過去の出来事を伝える史料が少なすぎるせいで、【七つの災厄】を甘く見てしまった。
そして――――知らなかった。
世界に七つ存在する災厄のなかで唯一。
【第七災厄≪激動の怠惰≫】の『女王』だけが討伐の確認されてないのを。
『女王』が在位のまま奇跡的に
なぜそこだけ確認が取れなかった理由を。
無知の代償はマキナたちが払うことになる。
百年前の戦乱を生き抜いた『女王』の魔の手が彼女たちを襲う。
▼
一寸先も見えない闇。
マキナとイッセイはどこともわからない暗闇に迷い込んでいた。
視界が変わったのは一瞬で、場所が変わったのも一瞬だ。
なにをされたのかはわからないが、なにが起きたのかは分かっていた。
襲撃――――AAAランクの失踪に関係した事態が起こっているのだと彼女は判断していた。
少年の方はなにが起きたのか理解が追いついてないらしく、
「な、なんだよ!?この暗い場所!?それに『力』が使いにくい!?!?」
「落ち着こうかイッセイくん。いま明るくする――――ね」
マキナの身体から出た緋色のアストラル光が辺りを照らす。
かなり明るめに照らしているが一帯には何も見えず、暗い空間がどこまでも続いており、なによりも異常なのが地面も真っ黒だった。
足を動かせば光を呑み込むような暗黒の地面が液体のように波打つ。
だが、それだけだ。足が沈み込むこともない、なにか害があるわけでもない、得体のしれない不気味な地面だった。
「なんだこれ?気持ちワル…………アンタはこれがなにか分かるか?」
「たぶん……だけど、教えてる暇はないかも。連絡マテリアは――――当然繋がらないか…………イッセイくん。『力』全開ならこの空間から出れそうにない?」
――――地面にわずかな波紋。
マキナがこの地に降り立った時にカテゴリー5だと気づかなかった理由がある。
「ちょっと待ってくれ。反応は――――あるな。かすかに外の気配がする。なんか『力』が使いにくいけど、時間もらえれば外に繋げれそう」
「さすが空間系のAランク。だったら、はやく脱出しよう。ここが昔話や劇に出てくる【理想郷】の正体ならまずいことになるよ」
――――時間とともに大きくなる鳴動。
昔話に出てくる英雄【暁】が抗った【人類史の悪夢】は他の異界にない夜の世界。夜空が広がる世界と言われている。だから気づかなかった。
「【理想郷】?それって怪物たちの――――ッ!?なんだ、揺れがッ!?」
「くるよッ!?早く脱出の準備をッ!!!」
――――激震。夜空のような地面の奥から無数に光る凶星の光。
史料と証人が消えて由縁の分からない、名前だけ残った【怪物たちの理想郷】。
【第七災厄≪激動の怠惰≫】はそう呼ばれていた。
「……………………え?」
「呆けてる場合じゃない!!!ちょっと乱暴にするからね!!!」
「へ…………っぐふ!?!?」
地面が――――爆ぜる。
同時にイッセイを乱暴に抱えた傀儡とマキナが飛び退いた場所に巨大な
それは一軒家を呑み込めるほど大きかった。獲物を逃した顎は再び地面に沈む。
そして、液体のように波打つ地面から出てきたのはそれだけじゃない。
狼型から巨人型まで大小様々の『星獣』の群れが咆哮をあげ這い出てきた。
辺り一帯は『星獣』から生えた『アストラル・マテリア』の星光で明るくなる。
上空から見れば、暗黒の地面に星光の怪物は『夜空』のように見えただろう。
どんどん増えていく。
それは境界崩壊初日にアスラが『掃除』した数と同数に近いとマキナは気づく。
「もうこんなに増えたの……女王が生み出すサイクルが早すぎるッ」
「アンタの報告じゃあ初日に大量討伐したんだよな!?まだ一週間しか経ってないぞ!?普通はこの数を揃えるのに一年はかかるぞ!?」
「『
「そんな…………――――ッ!?なんか音が聞こえないか!?ヒッ!?」
マキナに抱えられたイッセイは聞いてしまった。見てしまった。
夜の世界に木霊する嘲笑のような鳴き声を。
わずかに透けて見えた地面を――――『巨大な目玉』が通ったのを。
恐慌するには十分だった。
「わああああああああ!?!?!?たす、たすけ、たっすああああああ!!!」
「ちょ!?暴れないで!いま襲われたらまず――――襲ってこない?」
周囲を囲む『星獣』たちに動きはなく、マキナたちを眺めるだけ。
その表情や態度には獲物をいたぶる嗜虐心が浮かんでいる。
怯えるイッセイを明らかに嘲っていた。愉しんでいた。
状況は初日に出会った『星獣』とほぼ同数。圧倒的戦力差。
周囲は囲まれ、別世界に囚われ逃げ場なし。生存は絶望的。
唯一の逃走手段を持つイッセイは恐慌。『力』の使用不可。
いまだ姿を見せていない『王』や『女王』。脅威は未知数。
絶体絶命――――その言葉がよく似合う状況だ。
マキナは目を閉じる。
彼女の瞼裏に浮かぶのは笑顔が似合う少女――――イクサバ・アスラの姿。
圧倒的戦力差でも怖気ず、引かず、『星獣』の大群に立ち向かった勇姿。
生存は絶望的に思えた苦境でもその豪拳で覆した、希望の光。
もし少女がここにいたらこの状況でも恐慌しない、相手の脅威が未知数だろうと関係なく立ち向かうだろうという信頼感が、あの日見た姿から想像出来た。
少しだけ勇気が出た。目を開いて、そう心の中でマキナは呟く。
「イッセイくん。ちょいちょい」
「ダメだダメだダメだもうここで――――ひぶふっ!?!?」
パァンッと乾いた音が響く。
恐慌するイッセイの頬をマキナがビンタした音だ。
いきなりの衝撃に、親にもぶたれたことないのに、という顔をする。
「よく聞いて。ここはわたしがなんとかするから、きみは脱出路をつくるのに全力を尽くして」
「な、なに言ってんだ!!そんなのできるわけ――――ッ!」
「できるよ」
「ッ!?」
「できるから信じて」
イッセイをまっすぐ見つめるマキナの目に諦めはない。
本気でこの絶望的な状況を覆そうとしていた。
覚悟を決めた彼女はイッセイに背を向け、怪物に対峙する。
いまだにマキナたちを侮る怪物たちに。
「その態度改めさせてあげるよ――――【
『AAAランク』・マサキマキナ。彼女の本領発揮は人形が傍にいてこそ。
「【――――The Show Must Go On】」
人形を使い、物語や劇の登場人物を模倣させることを得意とする。
「【一度上げた幕は成し遂げるまで終わらない】」
人形一体、一体に膨大な『星光』をつめ込み。その量はAAAランク相当。
「【一度演じた役は成し遂げるまで終われない】」
その技量や能力は物語の登場人物に準拠。それが強いほど人形も強くなる。
「【この戦劇を救世に全てを賭した英雄たちに捧ぐ】」
個にして群。
ひとりで複数のAAAランク相当の戦力を持つのは稀人の中でも彼女だけ。
戦場で無双の劇を開く彼女を世間はこう呼ぶ。
「【語れ!
――――AAAランク第三位『戦劇無双』
人類が誇る最高戦力のひとりだ。
「かかってこい、化物どもッ!!!人類をなめんなッ!!!」
激闘の幕が上がった。
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