第25話 『理想郷』への招待


 マキナがイッセイを『わからせて』ひと騒動起こした後、ふたりは突入準備を整えて境界ボーダーの前にいた。


「――――じゃあ、イッセイくん。打ち合わせ通りにお願いね」


「ああ。わかったよ」


「なにかおかしいと思ったら、。なかは危険だからね」


「念を押さなくてもわかったって」


 少年は最初の反抗的な態度が消えて、彼女の指示に素直に聞いている。

 その『教育』の成果にマキナは満足そうに頷いた。


(うんうん。こういう子には力関係をわからせるのが一番だね。でも――――)


 ススス、とイッセイの前に移動するマキナ――――顔を逸らされる。

 今度は逆側にサッと移動する――――思い切り顔を逸らされた。


(やりすぎた?顔を合わせたくないほど嫌われちゃったかな?まあ――――)


 イッセイの意思なんて関係ない、と言わんばかりにその手を取る。


「知ったことじゃないけどね。ほら、いくよ」


「ちょっ!?な、なにをすんだよ!?」


「いや、手繋がないと一緒に転移できないじゃん――――もしかして、意識してる?」


「はあ!?んなわけないだろ!この『巨人星獣亜種ゴリラの化物』が!!勘違い――――って!イタイ、イタイ、イタイ!手が潰れる潰れる!!ごめんなさい緩めて!!!」


 マキナがぎゅっと軽くにぎると、ミシっと嫌な音がイッセイの手からでる。


「いまどき女の子に手を握られたくらいで反応が過剰じゃない?耐性がなさすぎでしょ。心の体も」


「だからそんなんじゃないよ!というか、お前の化物パワーに耐えられる体なんてこの世に限られんだよ!」


「ん?化物?」


「ごめんなさい」


 少年は圧力ある笑顔に屈した。すっかり調教済みである。


「まったく。遊んでる場合じゃないんだからね。さっさといくよ」


「ちょッ!?まっ!まだ心の準備が――――」


 少年はなにかを言っていたが、無視して手を引きマキナは境界ボーダーの中に飛び込んだ。五体の傀儡を連れて。

 世界を渡る際に感じる浮遊感にしばらく身を任せ――――抜けた。


 抜けた先は脱出時と同じ場所。極光にかがやく異界の空。

 マキナは再び『カテゴリー5』の空を落ちていた。


「ほら出番だよ。イッセイくん。はやく『跳んで』」


「おまあああああああ!?なんでこの状況で落ち着けんだよおおおお!?!?」


「稀人なら楽勝でしょ?ほらほら、はやく『跳んで』はやく。はーやーくー」


規格外おまえを基準にするなあああああ!!!くそがあああああああ!!」



 落下による風の音がうるさい中、恐怖で顔が歪む少年の優れた聴覚が余裕そうなマキナの声を捉える。めっちゃ煽られてた。



「やってやるよおおおおぉ!!!『開けオープン!』、『遥かなる旅路アストラル・ロード!!!』」



 パニックになりかけながらも少年は事前に決められた行動をする。

 山吹色のアストラル光が少年の体から吹き出し、前方に空間の裂け目を作る。

 その中にふたりと傀儡たちは飛び込み――――瞬時に地上に降り立った。

 ふたりの背後で空間の裂け目が閉じていく。


「さすが空間系稀人!移動が速いね。じゃあ、生存の可能性が高い順に回っていこうか」


「ぜーはー、ぜーはー!…………す、少し休憩を……こ、心がもたない……」


「ダメ」


「鬼か、おまえは!?!?」


「え?ムリなの?ほんとうに?そっか~…………」


「ぐっ……やればいいんだろ!やれば!!!」


 マキナのがっかりした目に耐えれなかったイッセイは奮起した。

 なぜ耐えれなかったのか少年自身は分かっていない。



「『扉:固定』。一気にいくよ!」



 瞬きの間に手を繋いだマキナ&傀儡たちと一緒に建物の上に移動して、目的地めがけて短い転移を繰り返していく。空間の裂け目は閉じずに『固定』して。

 これが帰り道やになる。万が一の時に逃げれるように。



「おおー。速いねー」


「――ッ!?ああ!だが、まだまだこんなもんじゃない!もっと速くなる!」


「?なんかいきなりやる気だしてきたね?」



 ほめられた少年はいいところを見せようと頑張る。

 なぜそう思ったかは気づかない。気づけない。初めての経験だから。

 ただマキナの前で格好をつけようと思ってしまった。


 だが、この時イッセイはそうせずにマキナに報告すべきことがあった。

 ことを言うべきであった。

 「なにかおかしいと思ったら報告する」という彼女の指示を無視してしまった。

 実戦経験のない少年は致命的なミスに気づかないまま目的地に向かう。


 その後、AAAランクがいなくなった場所まであっという間に移動して、入念に痕跡を探し、あやしい場所がないか調べた結果は空振り。

 マキナはなにも見つけることが叶わなかった。


 だが――――首を傾げたAランク空間系稀人イッセイはなにかに気づいてるようだ。


「――――じゃあ、イッセイくんは誰かが別空間に囚われてる可能性はあるって言うの?」


「たぶんだけどね。空間系の感覚がここに来てから違和感を覚えてんだ」


「違和感?」


「うん。僕の転移って点と点を繋いで移動してんだけどさ、なぜかここって、。最初は気のせいかとを思ったけど、さっきの転移で十メートルズレた――――」


 その言葉を聞いて瞬時にマキナはイッセイを担いで『避難路』に飛び込み――――目の前で空間の穴が消えた。少年をすぐさま下ろした彼女は戦闘態勢に移る。



「チッ!やられたッ!『人形に命令ドールオーダー』!『密集陣形ファランクス』!イッセイくんを守って!!!」


「え?え?え?」



 いきなりマキナに担がれ、自分の能力で作った空間の穴が消え、なにがなんだかわからないままイッセイは緋色結晶の槍と盾で武装した傀儡たちに守られた。

 彼女は周囲を険しく見渡し、イッセイに声をかける。


「イッセイくん。能力を使って逃げれそう?」


「え?えっと……やってみる――――あれ?」


 少年は『力』で空間に穴を開けようとするがうまくいかない。

 開けてもすぐに塞がってしまう。


 それでも再び試そうとする――――が、その前に世界に変化が訪れた。


 辺りが暗闇につつまれる。

 常に極光にかがやく空があり、『夜』という概念がない『星幽アストラル界』に闇が訪れる。

 いや――――



?」



 『星幽アストラル界』とは別。

【『女王』ウル=アルケディア】の創りあげた【理想郷】にマキナたちは囚われた。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――


いま身の周りが忙しくて投稿時間が遅れています。

この忙しさは2月の頭まで続きそうなので投稿できない日があるかもしれません。

だけど、なるべく毎日投稿を頑張ります。

なので、どうかこれからもよろしくお願いします。



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