第20話 揺るがぬ決意。英雄の覚悟
【カテゴリー5内・戦闘跡地・調査班】
マキナたちが脱出した後の『カテゴリー5』内は大勢の協会の精鋭たちとそれを補佐する者たちが降り立っていた。
星界管理協会『アストラル・ギルド』は人類史の悪夢と呼ばれ、百年前に世界を滅亡まで追い詰めた『カテゴリー5』の『境界崩壊』という絶望的危機な事態を重く捉えていた。
普段は犬猿の仲である『国軍』と連携を取り事態の終息に動くことに決めて、内外から『境界』を閉鎖するための作業を進めている。
各地から人員を集めれるだけ集めて放棄された都市が人で溢れるなか、『カテゴリー5』内は――――
「――――どういうことですか?静かすぎませんか?」
不気味なくらい静寂に包まれていた。
「ここは本当にあのカテゴリー5で合ってますよね?」
「そう上から聞いてはいますが…………」
複数に分かれた調査班のひとつ。
護衛に守られた『
調べることはそこで何があったのか、原型がわからないほど散乱した『星獣』の種類、ところどころに生える『無機アストラル・マテリア』の純度から異界内の脅威を予想など多岐にわたる調査をしていた。
はじめは御伽噺に語られる場所に恐々としていたのだが――――なにもない。
「百年も閉じてたから溢れかえっていると思ってたんだがな…………死骸以外なし」
「大怪獣が通ったのかってくらいの新しい破壊跡と大量の死骸があるから、なにかがいるのは確実…………急先鋒のAAAランクたちから『王』か『星獣』の発見報告はありますか?」
「いいえ、まだないです。この異界は広いすぎるから見つかってないだけかもですが…………それでも発見報告ゼロは不気味すぎです」
「隠れるのが巧い『女王』が見つからないのは分かるんですがね…………」
調査班のひとりは、それに…………と続ける。
「この戦闘跡が『王』の闘争跡だとしてもやりすぎじゃなですか?ほかの異界じゃあ全滅に追い込むまでの『闘争』なんてやらないですよ…………」
「『王』が己を高めるために同胞の≪アストラル≫を喰らう『闘争』…………カテゴリー5だから規模が違うと言われればそれで終わりなんですが…………なんか腑に落ちないですね…………」
「――――いま通信でここから少し離れたところで、巨人型星獣の死骸を発見したと報告がありました。推定『側近級』と予測されます」
『側近級』――――それは『王』のそばを固める強大な星獣。
『星幽界の王』の次に同胞を喰らい『力』を持つ個体。
その報告に一同はさらに訝し気な顔になる。
「この量の死骸に加え『側近級』まで?いったい何が起こってるんだ?」
「いくら大喰らいといっても限度がありますよ。ここの『王』は群れを崩壊させたいのでしょうか?」
「さすがにおかしすぎます。その『側近級』は『王』じゃなくてAAAの誰かが倒したのではないのですか?自己が強い人たちばかりですから報告をしてなかったとかでは?」
「いえ、それはないです」
報告を受けた調査員はきっぱりと否定する。
なぜなら――――
「死骸はここと同じく、生物由来の『アストラル・マテリア』が全て喰われた跡があったそうです」
――――『星幽界の王』が捕食したと思われる痕跡があったから。
◆
「今日は本当に素晴らしい日でした。夢のようでした」
月がきれいな夜空を仰ぎ見。
夜更けでも活気のある都市の夜景を見下ろし。
こっそりとマキナの屋敷から抜け出したアスラは高い建造物の上にいた。
虚空に話しかけながらアスラは今日の出来事を思い出す。
『カテゴリー2』の鎮圧をあっさりと終わらせたアスラは、同行して血の気が引いた顔の協会職員に「後日に資格取得や階級決めの結果をお伝えます」と言われた後、さっさと帰った――――結果がどうであれもう関係ないから、と。
鎮圧の際に受け取った報酬はすべてマキナに渡してある。
マキナは受け取るのを渋ったが『多大な恩がある』という主張をアスラが押し切った形だ――――自分には必要ないから、と。
その後も、屋敷に戻ったアスラは
ほんとの本当に楽しんでいた――――このわがままで最後にするから、と。
「このまま覚めないで欲しい、そう思える夢です――――離れたくないなぁ」
未練はあれども、固い決意を心に秘めた少女の意識に声が響く。
『イいノカ?こノままコッチに残ル選択モあるゾ?』
それはノイズが混じったような声だったが少女は気にしない。
百年も共に歩んできた仲なのだから。
「ダメです。【シュラ】も知っているでしょう?あの臆病なひきこもりの狡猾さと執念深さを。アスラがこっちにいる限り絶対に追っ手を出します。次のサイクルはそこまで時間がないはずです」
『アア。だかラ、【境界】を開ケテおいてアスラが時々、牽制シテアイツの手駒を潰し続ケレバ、コッチに残れ――――』
「絶対にダメです」
【シュラ】と呼んだ声を遮り、迷い無く否定した。
「百年前の人類はそれで失敗しました。二の轍は踏ませません。必ず【境界】は閉鎖させます」
その言葉にほかの道を選ぶつもりはなく。
悲劇を繰り返させない断固たる意志が存在した。
それでも納得いかないのか【シュラ】はさらに言葉を続ける。
『――――アスラはモウ休んでイイ…………ソレだけの働きハ十分すぎルほどニした。アトは次世代に任せレバいいじゃナイカ』
「それもダメですね。その次世代を守る為にアスラがこうして生かされているのです。バケモノは人の世にいるべきではありません」
『ダが――――』
『世界を護る
なにを言われようと、少女の決意は決して揺るがない。
『…………この頑固者メ。世界ヲ救った報酬クライ求めロ』
「守り通した未来を見れました。アスラにはそれで充分。報われたのです」
目を閉じ、浮かぶのは平和な世界。そこに住む人。
それを目に、記憶に、魂に焼き付けた。
これであと百年でも二百年でも――――永遠にでも頑張れる。
そんな悲壮な覚悟を決めて。
「マキナたちに別れの挨拶を言いたいですけど――――ダメですね。事情は話せません。あの子は力ずくで引き留めてきそうです。申し訳ないけど、このまま姿を消しましょう」
『アスラ…………』
イクサバ・アスラは目を開き、力強い意志が宿った深紅の瞳が【
そこに潜む邪悪な存在を見透しながら。
「アスラがいない隙を狙って地上に出てきますか?――――いえ、お前にそんな勇気はないですね。なら、裏でコソコソするのが精々でしょう。だったら、やることは決まってます――――」
告げる。
隠れ潜む臆病者――――【
これから永劫に続くであろうその行為と――――
「いつも通り潰して上げますよ。その企みをッ!いつまでもッ!その場所でッ!」
――――帰還したばかりの世界に別れを。
手放したくないと思える、尊き一分一秒。
当たり前でどこにでもある、輝くような時間。
自分と仲間たちが身命を賭した、素晴らしき世界。
そこに住む活気にあふれた人々、守り通した証。
「世界を決して汚させませんッ!奪わせませんッ!壊されてなるものかッ!!!」
そのためなら永遠に続く戦いに――――修羅の道に身を投じる覚悟はある。
この身が朽ち果てるまで。
帰還した世界から姿をを消した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
第一幕は佳境へ
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