第14話 世界は奇跡で満ちてる



「――――マツムラって言ったか?それで?さっきのやつらにそそのかされて【境界崩壊】を起こしたと?」



 裏社会の人間が帰ったあと、バンたちは完治した中年男に『なんで【境界崩壊】を起こした?』と詰め寄っていた。あれでずっと封じられていた『カテゴリー5』が解放されてしまったのだ。

 そのせいでマキナが怪我をした。それをバンとツヅルは許せなかった。

 ちなみにマキナ・アスラ・カンナはここにいない。別室であれこれしている。


「ああ、やつらから借金をしてな。指定したとこに『穴』をあけてこい、と言われた。そうすればお前の願いが叶うとも…………」


 マツムラと呼ばれた中年男性が語る。

 昔はされた『アストラル・マテリア』加工関連の仕事をしており、安定した給料をもらい不自由なく生活していた、という。


 しかし、『アストラル・マテリア』を卸す取引先で事故が起こったことで生活が壊れていった。

 詳細は言葉を濁していたが、どうやら取引先にいた『稀人』に責任を押し付けられて、多額の賠償金を請求されたらしい。


 そこからは転がるように転落していき、裏社会の人間に頼ってしまった。

 原因になった『稀人』を恨み、もし自分が『稀人』になれたら…………!とも語っている。だが――――


「――――いま考えると自分の言動と行動はおかしすぎだ。閉じた【境界ボーダー】を許可なく開けるのは違法だし、異界にいけば『稀人』になれるなんて言うのはの連中くらいだろ。俺ははあんなに狂ってないと思ってたんだがな…………」


「それ、たぶん精神系の『稀人』になんかされたんすよ」


 その場の視線がツヅルに集まる。


「なんすかその視線は?精神系って聞いて洗脳的なエッな想像しちゃったんすか?先輩こんなときになに考えてんすか」


「流れるように冤罪かけんな。それに精神系って、それ――――」


「精神系の『稀人』って心を読んだり操ったりできるレアなやつで、そんな能力をもってるから身近な人に嫌われやすいっす。んで、存在自体がヤバいから見つかった時点で保護&存在隠蔽がセット。一般に知られてないのはこれのせいすね」


 バンの声を遮って、マツムラに聞かせるように説明する。


保護から洩れるヤツがいるから。裏社会に流れてることがあるっす。でも、強力なヤツは国の保護下にから裏にはいないはず――――だから、力の不足分をヤバい薬とかで補ったんじゃないす?」


「…………たしかに何か飲まされたような……?でも、キミはなんでそんな一般に知られていない情報を知ってる?きみは――――」


「おっさん、詮索はなしだ」


 バンは有無を言わせない圧力を込める。


「…………ああ、わるい。不躾だった。こっちは助けられた立場なのに」


「――――はぁ~。いや、こっちもわるかった。すこしピリピリしてた」


「先輩、べつに自分は気にしてないすよ。それよりマツさんの話で気になることがあるっす」


「気になること?」


「はい。裏のやつらの考えがわかんないっす。【カテゴリー5】の【境界】をこわせなんて、世界を危機にさらすも同義っすよ?なんでそんなとち狂ったこと指示したんす?そもそも封じた場所は極秘情報すよ?どうやってさぐり当てたんすかね?」


 当然の疑問だった。

 【カテゴリー5】は現代を生きる人間にとっても恐怖の象徴だ。

 そこを解放しようなんて正気の沙汰ではない。

 そして封印された場所は秘中の秘だ。裏社会の人間風情が探れるようなもんじゃない。もしや背後に強大な存在が隠れてるのでは?とツヅルは疑う。


 それに対するマツムラの答えは肩透かしな内容だった。


「ちがうぞ。指示された場所は別の場所だった。やつらが管理する土地の、閉じた状態の【カテゴリー2】を開く予定だったんだ。だけど、あのマキナって子に見つかって――――」


 そこから語られるのは、AAAランク『稀人』の追跡をなんの取り柄もない中年男が計画にない行動で追っ手を振り切る手に汗握る逃走劇。

 偶然を味方につけ、機転を利かせ、奇跡を呼び起こし、見事逃走を成功させた。

 一本映画ができそうな内容だが長すぎるので割愛。


 そのあとは、たまたま逃げた先で、【境界】の活性化を感知する機器がたまたま反応を見つけ、爆弾をつかったらたまたま【カテゴリー5】だった。

 話を聞くふたりの顔にはこう出ていた「いや、どんな確率だよ」と。


「いや、どんな確率だよ」


 声にも出た。


「つまり?奇跡がおこって世界が滅ぶところだった、と?ふざけた話っすねー」


「そういえば、あれからどうなったんだろうか?【境界】が開きっぱなしはまずいんじゃないか?」


「まあ、そこは『協会』の連中に――「みてみて!アスラかわいくない!」



 バンの声を遮って部屋に現れたのはご機嫌なマキナ、やりきった顔のカンナ。

 そして――――襤褸ボロから現代服に着替え、長い髪を半分にまとめたアスラだった。

 虚勢を張っているのか。若干腰が引けながらもにその姿を見せつけている。


「ど、どうです!カッコイイでしょう!アスラはなにを着ても似合うと昔から言われてるです!」


「うんうん!かわいいよ!このまま飾りたいくらいだよ!」


「かわいい?い、いえ、アスラはカッコイイですよね?」


「元がいいからいじりがいがあったよ。アスラちゃん!かわいいから『アストライブ』に写真あげてもいい?」


「かわいい?『アストライブ』?だ、だから、アスラはカッコイイ、ってそんなことよりも!アスラの話を聞いて――――「あっ、まずい!換金所がもう少しで閉まっちゃうよ!」――――あー…………」


 なにかを言いかけたが、タイミング悪くマキナが声を上げてしまい、言い出すきっかけを失ってしまった。

 ボッチ歴が長いせいで対人コミュニケーションはいまだ難あり。頑張れ。


 ちょっとしょんぼりしたアスラにマキナは気づいた。

 

「アスラ、よかったら一緒におでかけする?」


 それは気分転換にいかない?という軽いお誘いだがアスラは激しく反応した。



「そ、外!?いきたいです!外の景色――――現代の生活を見たいです!」



 英雄アスラ(現代で)はじめてのおでかけがはじまる。




 ―――――――――――――――――――――――――――――






若干、マツムラ(モブ)に主人公属性が生えつつあるのを感じる今日この頃。

追放・不幸からの幸運・奇跡の生還――――

そのうち不幸の原因になった稀人に『ざまぁ』しそう。


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