第13話 中間管理職ってつらいね


 ちまたでお化け屋敷と噂の高ランク『稀人マレビト』が住む家から撃退された、いかにも裏社会の人間です!という見た目の男たちが気絶した仲間を連れ、路上に複数台停めてあった黒塗りの車に乗りその場を去っていく。


 車内では強面こわもての男が上の立場にいる糸目の男に話をかけていた。


「アニキ……にちょっかいかけるのはもうやめましょう……命がいくらあっても足り――――がぁっ!痛!?」


「そんなことわかってんだよ。わかったうえでやってんだろぉが?」


 赤くなった拳を握る糸目の男。

 そこにマキナと話した時の丁寧な口調はない。

 神経を逆なでする声はドスのいた声になっていた。


 それでも強面の男はアニキと呼んだ男よりマキナのほうが怖かったのか、に反対する声をやめない。


「ですが、アニキッ!ウチの暴力担当『稀人』三人をあのバケモンは満身創痍の状態で一方的に潰したんですよッ!『稀人』ならほかを探せばいいじゃないですか!?」


「それができたら苦労しねぇんだよッ!!!」


 命の危機を感じた必死な訴えを、さらに必死さを感じさせる叫びでかき消す。

 その顔に余裕はなかった。



「ほかの『稀人』を探せばいいだぁ?そんな簡単な話じゃねぇんだよ…………いいかよく聞け?あの『稀人』――――マサキ・マキナのと思ってんだ?これはオヤジ肝入りの案件なんだよ……失敗しましたで済むと思ってんのかァッ!!!」



 それになあ!と糸目男は付け加える。



「いねぇんだよ!!!オヤジが望んでんのはただの『稀人』じゃねぇ!高ランクの――――この国に二十人しか認定されてない【AAAトリプルエー】ランクの本当に稀な存在をご所望なんだ!その辺の『稀人』でいいわけがあるかッ!!!」



 糸目男はそこまで叫んで疲れたのか、ハァ、ハァと荒げた息をととのえ座席に深く座りなおした。車内の天井を仰いで、愚痴をこぼす。


「ほかに【AAA】がその辺にいるならそいつでもいいんだよ。一等区に住んでない、傲慢じゃない、気に入らなかったら半殺しにしない、警戒心が高くない、未成年で保護者がいない、ついでに借金を背負ってたら最高だな。お前はこの条件で心当たりあるか?」


「…………いないです。まずやつらはひとりを除いて一等区に住んでますし、他の条件も難しい…………特にいくらでも金を稼ぐ手段があるから借金をつくるなんて想像できないですね」


「だろ?でも奇跡的に条件ぴったりなやつがいるんだ――――マサキ・マキナだ」


 男たちは何年も前からマキナに目をつけていた。

 高ランクでありながら莫大な借金を背負う彼女をどうにかして自分たちの元で働かせるため、あれこれと画策してきたのだ。しかし、本日特大の失敗をしてしまう。


 ぼやきが止まらない



「ヤツをに引き込むために色々手を回した。たとえばわざとチンピラを絡ませてバレねえようにさりげなく仲裁して恩を売ったりしてきた。自作自演だな。今回も、『達成不可能』な依頼を失敗させて、罪悪感と良心の呵責のダブルコンボで攻めて、仕事を徐々に受けやすくする準備も進めてた――――な・の・にッ。あんの、馬鹿どもがッ!」



 糸目男が思い浮かべるのは三人の稀人バカ。怒りがこみあげてくる。

 ボロボロで≪アストラル≫反応が薄くなったマキナに、制止の声を無視して襲い掛かった脳筋たち。

 しかもあっさり返り討ちされ、いまは別の車で病院に連れていかれてた。

 そのままあの世まで逝ってくれ、と糸目男は願う。


「相手は【AAA】ランク――――『戦劇無双のマサキ・マキナ』だぞッ!?なにを考えてCランク以下のテメエらが勝てると思ったッ!」


「あいつら、人形がなければただの雑魚だろ?と侮ってましたね」


「たとえ勝ったところでどうする気だ!?こっちの目的は自分の意志で従わせることなんだよ?暴力で従わせれるならとっくにやってんだよ!報復されたらヤバいことがわかんねぇんのかぁ!今回のことでいままで築き上げた信頼がパーッだ。クソッタレがぁ!!!」


 血管が切れそうなくらい怒る糸目男。胃に穴があきそうだ。


「こっちのこと完全にゴミを見る目で見てました…………」


「くっそぉ…………あともう少しで、ちょっとした悪事に手を染めさせて、そこから転がるようにの道に引きずり込む予定だったのにぃ…………」


「もうこっちの仕事うけてくれそうにないですね」


も予定外のところに穴あけやがてぇ……しかも生きて、あっち側にいるし…………計画が狂いぱなしだ――――あ」


 男の持つ通信機器から着信の音が鳴る。

 画面に表示された通信相手は――――



「オヤジからだ…………」



 部下の責任は上司の責任。そんな言葉が思い浮かんでいた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 話が長くなってしまったので分割します。

 明日の6時くらいに次話投稿しますね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る