第11話 ほーら、こわくない。こわくないよ
劇団『エクス・マキナ』に入団して一ヶ月ほどの新人。
アイガキ・ツヅルは困り果てていた。
「え~と?カンナちゃん?ここにお父さんが――――あっ!?その防犯ブザー降ろすっす!?お姉さん、警察のおじさんにたちに捕まると面倒なことに――――あ~!?抜かないで!?そのピン抜かないでほしいっす!?!?」
目の前には死にかけ中年男の娘――――カンナがいる。
ツヅルは独自の情報網で娘を見つけてここまで連れてきたのだが、その娘は睨みながら防犯ブザーのピンをいつでも抜けるように構えていた。
抜いたが最後。警察に通報、場所を即時特定、近隣の警備ドローンも飛んでくる優れモノだ。
「やっぱり騙したッ!最初から怪しいと思ってたんだッ!」
「やっぱり!?怪しい!?お姉さん傷つくっすよ!?あと騙すつもりは――――」
「いなくなった親父がいるって来てみたら有名なお化け屋敷ッ!こんな場所に連れてきてどうする気ッ!」
「いや……ここ古いっすけどお化け屋敷じゃあ…………ちゃんと、自分ら住んでるっすよ?」
ツヅルは劇団『エクス・マキナ』の拠点である、よく言えば趣き深い歴史のある屋敷、悪く言えば歴史だけのガタがきてるボロ屋敷に居住している、とカンナに伝えるが疑惑の目は消えない。
「ウソだッ!!夜な夜な人形が徘徊する話は有名だし、窓から赤い人魂がよくみえるって友だちがいってた!」
「あー…………――――」
心当たりのある内容ばかりだった。
屋敷の持ち主である団長が操作練習のためにしょっちゅう人形たちを動かすし、機嫌がいいとすぐに緋色の『アストラル光』で髪が光るし、なんなら肝試しで侵入してきた子どもを人形で大いに脅かして、追い返したこともあると団長がたのしそうに語っているのを彼女は聞いたことがある。
結論:お化け屋敷疑惑は、団長さんが全部わるい!とツヅルは心の中で叫んだ。
「カンナちゃん、それは『
「マレビトォ~~???『稀人』たちは一等区画に住んでるはずでしょ!こんな一般人が集まる区画のボロ屋敷に住むはずがないことくらい、小学生だって知ってる!ウソつくならもう少しましなウソをついてよね!」
「ウソじゃないんすけどね~…………あと、さりげなくボロ屋敷はひどいっす」
さらなる疑惑の目をむけられながらも、ツヅルは思う。
その疑念はもっともだし、この反応も仕方ないか、と。
この時代で『稀人』は特別な存在だ。
各種インフラに必要不可欠になった純度の高い『アストラル・マテリア』を危険に満ちた脅威度の高い異界からとってこれるのは彼・彼女らだけである。
そんな『稀人』たちには一定の優遇措置がとられている。
その中のひとつに高級住宅や施設が集まる1~10区に住居をもてる権利がある。
これはランクの高い『稀人』ほど優遇される。
マキナくらいになると最上位の――――と、考えが逸れていることに気づいたツヅルは本題にもどることにする。いまやるべきことは――――
「カンナちゃん、よく聞くっす。ここでお父さんに会わなかったら一生後悔するっす」
ツヅルは真剣な表情をつくり、かがんでカンナと目線を合わす。
ちゃんと言葉がとどくように。
「で、でも!親父がしぬって言われても――――なんとかならないのッ!?そうだ!『稀人』のところに連れていけばッ!医療系の――――」
事情はここにくるまでに伝えていた。
それを信じたくない気持ちを疑心で隠していたのかもしれない。
すがるような言葉に、ツヅルは首を横にふる。
「こればかりはどうにもならないっす…………異界の毒で結晶化した体を戻すことができる『稀人』はいないっす……治療は不可能っす。だから、最期に会ってあげないと…………」
「そんなッ――――」
カンナが目に涙をため、あふれようと――――
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアン…………!!!
ガラガラガラガラ……………………
――――したところで、屋敷内から破壊音と轟音が鳴り響く。
「な、なんすかッ!?」
「なに、なに、なにがおきた!?」
あまりの衝撃に涙がひっこむカンナ。
屋敷内から聞こえる「なによこれーーーー!?」と叫ぶマキナの声。
あわててツヅルも屋敷内に入り、カンナを連れていき騒ぎがする方向へ。
「あ、天井がなくなってるっす…………」
さわぎの場所は男が寝ていた場所の真下にある部屋だった。
一階の天井がぶち抜かれており、二階とつながっている。
その場所は書斎で、古い本を本棚に入れて保管していたが、いまは棚はこわれて本は散乱していた。
その場所にいたのはツヅルとカンナを除いて四人いる。
「ほーら、こわくない。こわくないよ~。おりておいで~。チチチ…………」
「ふーー!ふーー!ふーーー!」
「団長どの、ネコじゃないんだから…………って、ネコっぽいな、コイツ」
「いきてる…………?俺……生きてるよな?」
壁際の倒れていない本棚の上で威嚇する少女を降ろそうとするマキナ。
知らない人間がたくさんきてキャパオーバーになった百年間ボッチのアスラ。
なだめる団長と髪の毛を逆立たせて怯える少女を呆れた顔で見ているバン。
自分の生存を疑問に思っている中年の男――――その体に結晶はない。
「おや――――パパッ!」
「カンナッ!?」
娘は行方がわからなくなっていた父親に駆け寄り、抱きつく。
男も抱擁をかえして感動的な場面なのだが、ツヅルは目の前の光景に呆然としている。
「――――治ってる?」
治療不可能な不可逆の結晶化現象は治っていた。
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