第9話 阿修羅、覚醒!(※目が覚めただけです)


 カテゴリー5を脱出したマキナたち。

境界ボーダー】を抜けて空高くに打ち出されていた。


 眼下には、大きな空間の歪み――――【境界】。

 それを中心にひろがる建造物の倒壊。

【境界崩壊】によって引き起こされたと予想された。

 さらには【境界】を取り込むように囲む一団。



「うーん?あれは『協会』のみんなかな?――――あっ、煙幕」



 自由落下をはじめたマキナが見たものは一団のなかから煙幕があがる。

 彼女はそれに見覚えがあった。


「劇でつかう煙幕――――てことはツヅルの仕込みだね。ならどこかに――――あっ。あっちかな」


 近場の建物に着地したマキナは周囲を確認した。

 煙幕に混乱した一団の「襲撃だ!気をつけろ!」とか「『稀人』たちがくるまで持たせろ!」など決死の覚悟を感じさせる声が響くのを聞きながら、一度きこえた車のクラクションが聞こえた場所を目指す。


 そこにはワンボックス車が停車しており、ドアを開けて手招きをする男が見えた。

 するりの中にはいっていく。

 車内には――――


 ガタイのいい深緑と灰色の髪を持つ三十路前の男。大八島オオヤシマバン。

 色眼鏡をかけた藤黄と黒の髪を持つ二十前半の女。愛垣アイガキツヅル。


『人形劇団エクス・マキナ』に所属するで出迎えしてくれていた。


「ただいまー。つかれたよー」


「おつかれさま、団長どの。言いたいことがたくさんあるが、長居は無用だ。とっととずらかるぞ」


「おつかれさまっす、団長さん。申し訳ないっす。倉庫の煙幕ぜんぶ使ってしまったっす」


「バンさんお説教はカンベンで。ツヅルは気にしなくていいよー。必要経費、必要経費」


 ツヅルは車を発進させ、『拠点』を目指しながら備品を使いすぎたことを謝罪した。その謝罪を聞いたマキナは、褐色の少女と中年の男をうしろに寝かせながら気楽なことを言う。

 金銭感覚のゆるい返答が劇団の雑務を一手に引き受けている人物――――バンのこめかみに青筋を立てた。


「団長どの、聞きたいんだが…………今回の爆弾を回収する依頼は?」


「…………失敗したね」


「劇でも使うアストラル・マテリア内蔵の高価な『パペット』は何体うしなった?」


「……………………十三体ぜんぶだね」


「危険な『星幽アストラル界』を脱出するのに『力』を使い切ったが回復するのは?」


「………………………………一日あればいけるかも?」


「体の回復を合わせれば?微妙に動きがぎこちないぞ」


「…………………………………………三日くらい?もしかしてマズイ状況?」


 よくない状況を理解したのか、マキナの返答は端切れが悪い。


「マズイな。依頼の未達成。劇で稼ぐにも高品質な人形がない。そもそも、『稀人マレビト』限定依頼を受けれる稼ぎ頭の団長が動くことが出来ない。を返す手段がないから抵当にはいってる【劇場】をとられるぞ」


「ちょッ!?やばいじゃない!?」


「価値観を共有できてなによりだ。そうだ。ヤバいんだよ」


 劇場をとられる――――その言葉に激しく反応するマキナ。

 それだけはなんとしても阻止したいと顔に出ていた。


「だが、まあ。それはおいおい話すとして、いまは団長どのの拾い物を何とかしないとな」


「あっ!そうだった!おじさんの子ども連れてきてあげないと!ねえ、おじさん。おじさんの子どもってどこに――――あれ?おじさん?」


 すやすや眠る褐色少女の横に座らせた中年の男は白目をむいてよだれを垂らしていた。


「――――し、しんでる…………ッ!?おじさん、おきて!お子さんに伝えたいことあるんでしょ!?」


「いや、死んだんじゃなくて気絶してるだけだろ。稀人だんちょうどのの動きに振り回されたんだから、そりゃそうなる」


「おじさーーーん!?!?!?」


『稀人』になろうとした男は『稀人』の高速機動せかいをその身をもって体験した。

 きっと満足して逝けたはずだ。(※死んでません)


 近くで騒々しくされても褐色少女――――イクサバ・アスラは目を覚まさない。

 長年かかえていた不安がなくなり、心置きなく寝ることができていた。



 ▼



『拠点』の劇場に戻り、各々やるべきことに移った。


 バンは依頼の失敗を伝えに依頼者の元へ。

 ツヅルは中年男の身元を調べて子供の捜索を。

 そして――――


 満身創痍なマキナは保護した褐色の少女をいまは使に寝かせた。

 ベットに連れてきても褐色少女は一度も目を覚まさなかった。

 かなり珍しいまっしろな長い髪をベット内に収めながらマキナは思う――――浮浪児にしてはきれいすぎる、と。


(この子、たぶんあの放棄した都市で暮らしてたんだよね?なのに服以外はきれいすぎる。よごれひとつもないよ。前に浮浪者をみたことをあるけど、こんなに身ぎれいじゃなかった…………それに――――)


 服の方に目を移す。それは原型が分からないほどすり切れた襤褸ボロであったが、よく見ると『稀人』が戦闘服につかう頑丈な素材に見える。


(この子も『稀人』だということに疑いはないから、戦闘服をもっていてもおかしくない。おかしくけど――――どうやったら、こんなにボロボロになるの?まるで長年つかい古した、経年劣化のあともあるし…………あの『力』といい、何者なんだろ?でも――――)


 強力な『力』を持ち、存在が謎過ぎる少女に疑問をもちながらも、その寝顔は年相応の少女のもので警戒する心がわかない。

 それは、マキナが褐色の少女と妹と重ねてるだけなのかもしれない。場所に寝かせてるから余計にそう思うのだろうな、と考えながらマキナは少女の頭をなでる。


(あの泣き顔みたらわるい子じゃないのはわかるよ。なんで泣いたかはわからないけど、あれはうれし泣きだった。うれしさが≪アストラルこころ≫を通して伝わってきた)


 万能の力――――≪アストラル≫は心の力。

 その『力』を放出するとき、その時に感じていた感情も一緒に外に出てしまう。

 それでなにを考えているかはわからないが、なにを感じていたのかはわかる。

 楽しんでいるのか。悲しんでるのか。怒っているのか。

 もしくは――――嬉しいのか。


 だから、≪アストラル≫をつかう『稀人』の感情は分かりやすいと、一般的によく言われている。

 褐色の少女はあの時うれしさを感じていた。それに間違いはない――――と、それだけわかれば十分なマキナは、少女に謎が多かろうが気にしない方針でいくことに決めた。


「おーい!団長どの、依頼者との話し合いがうまくいかないから、こっちきてくれ」


 そんな事を考えていると、下の階からバンの声が聞こえたきた。


「わかった、すぐいくー!――――じゃ、ゆっくりおやすみ」


 ベットに横たわる褐色少女に、おやすみの挨拶をしてマキナは階下へ降りていく。

 少しして、階下から若干の喧騒が聞こえ始めたとき、寝ていた少女が呟いた。


 ――――闘いの気配がする、と。


 それが覚醒のきっかけになったのか、少女は起き上がり、寝ぼけまなこで辺りを見回す。見覚えがない場所に首をかしげながら再び口が動く



「【シュラ】、ここどこですか?」



 褐色の少女――――イクサバ・アスラはなにもない虚空に尋ねていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 ただいまどの時間に投稿したらいいのか調べ中です。

 更新時間は不定期になりますが、投稿は止めることはありません。


 これからも『イクサバ・アスラ』をよろしくお願いします。

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