第4話 響き渡る歌。星幽界の王
――――ああ、なつかしいな。
思い出すのは在りし日の光景。
都市内で人気の歴史を重ねた劇場。
公演をすれば満員御礼。拍手喝采と大歓声が響き渡る。
団長の父。女優の母。初舞台に立ったばかりの妹。団員のみんな。
なにもかもが輝いてた日々。
――――『
次に思い出すのは定番の演目。
大昔に七つの災厄から世界を救った英雄たちの物語。
それは『稀人』なんかほとんどいない時代にやり遂げた偉業。
何十、何百と繰り返し見ても色褪せない不朽の名作。
――――そんな物語の英雄たちにあこがれたっけ。
物語に出てくる怪物たちは怖い存在ばかり。
怪物たちをを生み出す『星獣』たちの母――――【
『星獣』たちの闘争の果てに生まれる最強個体――――【
『
そう、たとえば――――
目の前で暴れ狂う星鉱石の生えた巨人とか。
マキナの眼前まで身の丈を越える巨岩の如き拳が迫る。
「あっぶなぁッ!?」
それをギリギリで跳んで躱す。
拳が建物の壁を派手に壊していく。
破片が飛び散り、破壊音が鳴り渡る。
〈ヴォアアッ!!!ヴォオアアア!!!ヴォアアアアアア!!!〉
巨大な暴力の化身は全身を使って周囲を破壊尽くしていく。
マキナは巻き込まれてはたまらないと通信用マテリアを掴み、迅速に建物の屋上にあがって大きく距離を取る。『パペット』はその後についていく。
「こっわッ!?!?いきなり殴ってきたよ、アイツ!?」
『大丈夫か団長どの!?ケガはッ!?』
「ケガはないよ!でも、死ぬかと思ったッ!走馬灯が駆け巡ったよッ!」
『ケガがないならよかった。――――逃げれそうか?』
「うーん…………どうだろう?」
巨人より高い建物の上から眼下をのぞく。
そこには荒い息を吐いて、鬼のような形相で睨む巨人の姿。
「うわぁ……なんかメッチャ睨んでるよ…………わたし、なんかした?」
『というか必死過ぎないか?追い詰められた獣って感じがするぞ?』
『ていうか怯えてる感じっすね。「クルナ!クルナ!クルナァ!」って叫んでたっすよ』
ツヅルのその言葉にマキナの意識は通信マテリアのほうに向く。
「そういえばツヅルってあいつらの言葉わかるんだっけ?」
『簡単な言葉がわかるだけっす。まあ、わかったところで役に立つか?って内容しかアイツらしゃべらないから、希少だけどいらねぇ能力ナンバーワンのクソスキルっす』
「ん~?わたしはそうは思わないけ――――『来るぞ、団長どの!!!』
バンの焦った声に眼下の存在に意識を戻す。
そこには――――
「あっ。まずいかも」
大きく振りかぶり、『星獣』特有の
それを見てすぐにマキナと『パペット』は屋上を駆ける。
一歩でも、一秒でも、遠くに離れるように。
巨人は空間が歪むほどの『力』を込めた拳を――――解き放った。
解き放たれた禍々しき『漆黒の星光』は破壊の衝撃を撒き散らし空へと昇る。
凄まじき熱を放つそれは、大気を焦がし、音の壁を越え、マキナがいた建物を半分から上を消し飛ばした。
圧倒的な破壊をもたらした漆黒の星光が通り過ぎた道を、遅れて激しい風が吹き荒れ、地上の塵芥を巻き上げる。
〈ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!〉
粉塵が舞い、破片が飛び、暴風が吹き荒れる嵐のなか巨人は咆哮した。
これが最高危険度の住人。
これが人類を追い詰めた破壊を振り撒く絶望。
これこそが世界を滅亡まで導いた
並み居る人類に敵うものではない。
しかし――――
「うっっるさいよッ!!!」
彼女は『稀人』。
並み居る人類ではない。
塵芥に紛れて近づいたマキナは『緋色の星光』を立ち昇らせ、『パペット』とともに五指からのびる緋色の『操り糸』で首を狙い斬り付ける。
だが、巨人の腕に防がれ傷を負わせる程度に終わる。
しかもそれは表面を傷つけるだけ。少し血が流れる程度だ。
「ちッ。硬いッ」と舌打ちして吐き捨てる。
それならば、と。さらに『アストラル光』の出力を上げようとして――――
〈ヴォアッ!?ヴォアアア!?ヴォアアアアアアアアァッ!?〉
「は?」
腕を押さえ、大げさに痛がる巨人に気勢をそがれる。
「え?そんなに傷は深くなかったよね?」と疑問に思う。
そんなことを考えている間にも巨人は痛がり――――
〈ヴォア……ッ!ヴォアア…………ア?ヴォアア???〉
あれ?思ったより痛くないぞ?という顔になる。
マキナは知る由もないが、巨人は彼女と恐ろしき存在を誤認していた。
恐ろしき存在からの一撃なら最低でも腕が折れていた。
その思い込みが幻痛を引き起こしていたのだ。
巨人は体のサイズとシルエットだけで恐ろしき存在を判断していた。
浅すぎる傷口とマキナを交互に見て――――にやり、と
「なに?そのむかつく顔?」
〈ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!〉
「しかもなんか元気になってるし!?キミさっきまでの怯えた雰囲気どこいったの!?」
さっきまでの怯えからの必死さは消え、侮るような余裕の笑みを浮かべマキナを激しく攻め立てる。
隕石の如く降り注ぐ拳の嵐を搔い潜りながら、彼女は訳の分からない状況を把握するため、いったん後方に退避していく。
巨人もそれを追うが、彼女と追従する『パペット』のほうが足が速い。
距離はどんどん離れていくが巨人はまだついてくる。諦める気はなさそうだ。
無人の都市をマキナと巨人が凄まじい速さで駆け抜けていく。
「仕方ない。ここは全開で――――」
『待てッ!脱出するのに『力』が必要だ!ここで消耗するのはまずい!』
『それにアイツが一体だけとは限らないっす!ここは逃げ一択っす!』
戦闘の邪魔にならないよう今まで黙っていたふたりが制止をかける。
危険な巨人を不意打ちで排除できればよかったが、それが無理なら撤退しかないと進言していた。
「――――って言ってもねぇ……後ろの熱心な追っかけくんは地の果てまでついていくぞ!って顔してるしねぇ…………――――ん?これは?」
『どうした、団長どの?』
「ねえ。聞こえない?」
『なにがだ?こっちはストーカーのおたけびしか聞こえないぞ?』
『稀人』の超人的な聴力がそれを捉えた。
遠くで弾むような、戦意をかき立てるような、そんな声が。
それは――――
「これって――――歌?」
勇猛なる軍歌のような歌が聞こえる。
〈ヴォオッ!?ヴォオ、ヴォオオ!?〉
その歌は巨人にも聞こえたのか、足を止め周囲を挙動不審に見渡す。
顔には再び怯えが――――いや、恐怖が宿っていた。
その恐れが体全体に伝わり小刻みに震えている。
破壊を撒き散らした怪物たる巨人がなにかに恐怖していた。
〈ヴォオオオッ!!!ヴォオオオオオオオオオオオオオッ!!!〉
背の高い建物に囲まれ、歌は反響し、出所が分からない。
恐怖に耐えきれなくなったのか、巨人はマキナに背を向け走り出す。
それは足がもつれ、荒く息を吐き、顔を歪めた無様な逃走だった。
「な、なに?なにが起きてるの?」
マキナは怪物の豹変ぶりに混乱しながら疑問が口に出る。
『団長さん!あの巨人なんか「クル!?」って言ってたっす!』
怪物の言葉が分かるツヅルがその疑問を断片的に答えた。
「クル……来る?来るってなにが?」
『何度も「クル」って繰り返したあと――――』
巨人は口にした。その恐ろしき存在の呼び名を。
それは――――
『「シュラ」が来るって』
ガッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァン!!!
その呼び名を口にしたと同時に、巨人の横から高層ビルをぶち抜き。
巨大な白亜の手が生え、巨人の胴体を掴んだ。
それは巨躯を持つ怪物が小さく思えるほど巨大だった。
〈ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?〉
白亜の手はそのままぶち抜いた穴の中に引きずり込んでいく。
巨人は恐慌しながら抵抗するが――――無駄だった。
巨人はマキナたちの視界からに消え。
ビルに空いた穴の中から連続するなにかを破壊する音、怪物の絶叫が響きわたる。
怪物の声は徐々に小さくなり――――消えた。
穴の中から大量の青い血があふれ出す。
通信マテリアの先にいるふたりが、『逃げろッ!』と大声で繰り返すがマキナには届かない。
衝撃的な光景に思考に空白が出来てしまった。
圧倒的存在に身体がかたまってしまった。
無意識か――――ひとつの言葉を口に出す。
「――――あれが
それがマサキ・マキナとイクサバ・アスラの邂逅だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
書いてる途中で『あれ?これホラー小説だっけ?』ってなりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます