第3話 カテゴリー5



「う~ん?出口を目指すって言ったけど【境界ボーダー】どこに開いたんだろ?目を閉じてたから分かんないだよね。わたし感知タイプじゃないし、どうしたもんかな。――――にしても…………」


マキナは顎に手を当て考え。ちらっと、周囲を見渡す。



…………はぁ~~~………」



周囲に転がるのはバラバラになった大量の『星獣』と呼ばれる怪物の死骸。

キラキラした青い血液で一帯は血の海である。

マキナがしたものだ。


怪物の死骸には所々に『有機アストラル星光マテリア物質』と呼ばれる鉱物が生えていた。

それは適切に加工すれば様々な分野で活躍する『万能素材』で高値で売れる。

だが、持ち帰ろうにも手段がない。嵩張りすぎて脱出の邪魔になってしまう。

もったいないと言ったのは、落ちてる札束相当のものを諦めないといけないからだ。


な彼女にとって苦渋の決断である。


「ぐぬぬ…………いままで【境界ボーダー】が閉じてたおかげか、劣化が少なくて純度が高いし、色もいい。『パペット』に持たせて帰ったら借金返済の足しに…………でも、いざ戦闘になったら邪魔になるよね…………いや、それでも…………」


ブツブツと呟き。未練がましくお宝の山(死骸)を見つめている。

こんな猟奇的な現場を据わった目で見つめ、独り言を呟く姿は傍目はためから見たらハッキリ言ってヤバい人である。

この時代の基準でもギリアウトだろう。誰も見てない異世界でよかった。



「う~ん…………ん?あれは――――」



そんな合理的思考と欲がせめぎ合うなか、藤黄とうおう色の光源が飛び込んできた。

それは通信用に加工された『アストラル・マテリア』だ。

使用者の意思で自在に動かせて、異世界でも通信可能な超技術の結晶である。

その使用者は――――


「ツヅル?」


『団長さんいたーーー!先輩、団長さんいたっすよー!!』


『バカ!おまえ声が大きんだよ!』


『先輩も大きいっすよ!』


「いや、ふたりとも大きいよ」


コントのような会話にマキナは冷静にツッコミを入れる。

どうやら通信用のマテリアもこっちに飛ばされたみたいだ。


で見つけてくれたの?まあ、これで脱出できそうだね。じゃあ――――」


『待て団長どの。話の前に移動しよう。そこは見晴らしがよすぎる』


『団長さんそこヤバいっすッ。マジでヤバいっすッ』


「――――わかった。その辺の建物に入るね」


ふたりの声を潜めた真剣な声に意識を切り替える。

予想よりマズイ状況だと伝わってきたから。

生物の反応がない静かな建物を選んで、一番近くの建物のに入っていく。

そこは『アストラル・マテリア』に侵食された集合住宅団地の廃墟だった。

手ごろな二階の部屋を選んで玄関と反対の窓から侵入、中の安全を確認してようやく落ち着くことが出来た。


「ふー、ここなら話せるよね?それで?なにがヤバいのか教えてもらっていい?」


『その前に団長どのに聞いていいか?その『星幽アストラル界』の危険度は体感でどのくらいだ?『稀人マレビト』としての意見が聞きたい』


「ん?危険度?カテゴリーワンからファイブで答えればいいの?」


『ああ、頼む』


世界中の【境界ボーダー】の先にある『星幽アストラル界』は地続きのひとつの世界ではない。

星の数ほど固有の世界があり、その数だけ危険度が変わる。


カテゴリーワンは『常人ツネビト』では少々厳しい危険度。

カテゴリーツーからは『稀人』に任せなければならない危険度。

数字が高くなるほど、段々と危険度が高まっていき。

最大危険度になると――――


「う~ん?都市型の『星幽アストラル界』は珍しいけど危険度には関係ないよね?襲ってきた『星獣』はよくいるウルフやベアタイプで、マテリアの質が高くて若干強いくらいかな?でも、亜種でもなんでもないから高く見積もってもカテゴリーツーくらいの危険度?」


『そうか…………そう感じるのか…………』


『大昔の基準だから現代の基準とは違うんすかね?』


なにかを納得するふたりにマキナは不満げに問う。


「ふたりだけで勝手に納得してないで、わたしにも教えてくれない?」


『ああ、わるい。――――ただ、これから話す事は落ち着いて聞いてくれ』


『信じられないかもっすけど、本当の話っすから』


「そこまで念押しされるとこわいんだけど…………まあ、話してみて?」


やたらと念押しするふたりに嫌な予感を抱きながら続きを促す。

――――ただ、この時マキナは楽観視していた。

嫌な予感はあっても、戦闘タイプの『稀人』たる自分なら多少のことならなんとかなる、と。

だが、現実は彼女の予想をはるか上を越えてきた。



『そこの危険度は【カテゴリーファイブ】だ』


「………………………………ん?もう一回言ってくれる?」



マキナは耳を疑った。

というか信じたくなかった。

だって、本当ならそれはの危険度だぞ、と。

現実逃避し始めたマキナを引き戻す為、再び事実を叩きつける。



『そこは世界を滅亡まで追いやった【カテゴリー5】のひとつだ』


「わぁ…………補足情報ありがと」



【カテゴリーファイブ


それは人類史に残る悪夢。

星の数ほどあるアストラル界で、しか確認されていない災厄。

それを封じるのに百年前の人類は滅亡寸前まで犠牲を払った。

現代まで語り継がれる恐怖の象徴である。

マキナたちもその怖さを幼少の時から物語を通して刷り込まれてきた。


そこで、ふと疑問に思う。

伝え聞く御伽おとぎ話より怖い場所じゃないぞ?と。



「ねえ。ここって本当にカテゴリー5?昔話で聞く場所とは全然違うんだけど?」


『それは間違いないっす。あの辺一体の警備情報に調べたっす』


「ツヅル…………そういうことはもうしないって――――」


『緊急事態だ。許してやってくれ団長どの。こっちも団長どのを見失ってテンパってたんだ』


「うっ、わたしがヘマしたのが悪いから強く言えない…………」


マキナが責任を感じてる間、ツヅルが何かに気付く。


『ん~?団長さん、なんか体内の≪アストラル光≫が半分になってないっす?』


「あ、ヤバ」


『はぁ!?そんなヤバい戦闘してたのかお前!?』


「いや~、え~と、そうじゃなくて~。じつは――――」


マキナは『力』を使った経緯を話しいていく。

それをふたりが聞いていくうち通信先からため息が聞こえてきた。


『こんなバカなことを起こした元凶バカを助けるために、力の半分と高価な『パペット』をくれてやった、と?バカなのか団長どのは?』


「うっ」


『お人よしすぎるっすよ。――――もしかして、そのおじさんを探して一緒に脱出しようとか考えてないっすよね?』


「すぅー…………」(目を逸らし)


『考えてんのかよ!?ただでさえ危険な場所かもしれないのに何考えてんだ!?』


「いや、でも…………」


『でも、じゃねえ!まずはてめえが助かることを考えろ!ツヅル!脱出口までのナビゲートだ!』


『まあ、こればかりは先輩の言う通りっすね。そこがカテゴリー5っていうなら早く脱出したほうがいいっす――――まず、玄関から出るっす』


「はあい…………」


顔を俯かせトボトボとした足取りで玄関に向かう。

それは不貞腐れた子どものようだった。

そんなマキナを見かねたのか、バンが注意する。


『シャキッとしろ。そこが危険地帯ってことを自覚しろよ』


「…………ねえ、ここカテゴリー5って話だけど脅威になる感じが全然しないよ?脅威度の高い『星獣』って気配を隠す気がないから遠く離れてても分かるのに、そんな気配まったくない。ツヅルも感知してないでしょ?」


『う……まあ、そうなんだが。警戒に越したことはないだろ?』


『たしかに自分が感知してるのは小さな反応ばかりっす。でも――――』


「でも?」


マキナが朽ちた玄関の扉をどけて――――



『自分、カテゴリー4以上の脅威反応って掴めないんすよ』



その先にある巨大な目玉と目が合った。



「あ」

『あ』

『あ』

《ヴォ?》


玄関の先にいたのは身を縮めるように丸くなった星の鉱石が生えた巨人。

一目で尋常ではない存在とわかる怪物だった。


「ひゃあああああああああああああああああああぁ!?!?!?」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!?!?!?』

『マジすかあああああああああああああああああぁ!?!?!?』

《ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!?!?!?》


両者、予期せぬ出会いに悲鳴を上げる。


そう――――


怪物たる巨人が矮小なる人間を見て驚いていた。

まるで、かのように。


この時のマキナたちはまだ知らない。

なぜ強大な力と体躯を持つ巨人が気配を消して息を潜めていたのか。

なぜ隠れるように身を縮め丸まっていたのか。


それは――――


運命の時は、刻一刻と近づく。



 ―――――――――――――――――――――――――――――

投稿時間は0時か21時か、どっちがいいのか悩み中……


もうひとつの拙作『神星領域:ロスト・フォークロア ~超高性能な最新型のポンコツサポートAI【エト】と一緒にテッペンをめざします!~』もよかったら一読して頂けたら幸いです。

この作品は少年とAIの少女がXRゲームで頂点を目指すお話になります。

現在は二章中盤の終わり近くまで連載中です。

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