第6話 夜ふかしシネマナイトが終わったら

シーン7 リビング(夜)


(SE:冷蔵庫を開け閉めする音)

「お~、ビール! 手に持ってるのそうだよね?」

「いいじゃ~ん。でも、今日なんかあったっけ?」

「……そーか! 今日金曜日か! 華金だー!」

「幽霊だから、すっかり曜日の感覚なくなってた~」

(SE:グラスをテーブルに置く音)

(主人公、美春お姉さんの左隣に座る)

「ん~? グラス二人分?」

「あたしは飲めないからグラス用意しなくてよかったのに~」

「乾杯するの?」

「まあ、うん。グラスぐらいだったら持てるけど」

「わかった、ありがとう」

「別に~、いやではないよ」

「ただ、あたし乾杯するほどのことしてないし……」

「……え~、そんなことないって!」

「今、楽しいのは君が勇気出して、頑張ったからでしょ!」

(SE:プルタブを開けて、ビールを注ぐ音)

「あ~、透明なグラスに注がれる小麦色のしゅわしゅわ~」

「いつ見ても芸術品だわ……」

「……じゃ、君の成長と幸福なフライデーナイトを祝って……」

「かんぱーい!」

(SE:グラス同士が触れ合う音)

「いい飲みっぷりじゃ~ん!」

「見てるこっちも気持ちよくなっちゃうわ~」

(SE:テレビをつける音)

「おっ、テレビ見るの~?」

(SE:ニュースやバラエティなど、チャンネルがいくつも切り替わる音)

「この時間帯、あんま面白いのやってないのね~」

「あ、映画!」

「へ~、ノーカットで地上波初放送」

「……ふーん、全米が泣いた系ねえ。まあ、嫌いじゃないけど……」

「でも、今みたいなときは賑やかなのが見たいよねえ」

「そうそう。バーン! とか、ドカーン!ってなるやつね!」

「……マジで? 映像サブスク入ってるの?」

「ナーイス! じゃ、そっちで盛り上がる映画見よ!」

「いいね~、サブスク。良い時代になったもんだ~」

(SE:サブスク内で、作品を選ぶ音)

「アクション、SF、アニメ……。いっぱいあるな~」

「なんでもいいよー? あ、でも余命何日とかいうのはやめてね」

「お、決まったー? 見よ見よ!」

「……あれ?」

「これ、もしかして、ホラー?」

「い、いや、別に怖いとかじゃないけど……」

「へ、平気よ! 全然怖がってないからっ!」

「ほら、画面見て。始まってるわよ!」

(SE:おどろおどろしいBGM)

(左肩の近くで息を詰めるような声)「……っ」

「……すーっ、はーっ」

(緊張した息遣い)「……ひゅー、ふー」

「……ねえ、腕、くっついてもいい?」

「べ、べつに怖がってるわけじゃないけど」

「ただ、そうしてたいだけ……。いいでしょ?」

(SE:映画内のジャンプスケア音。幽霊が飛び出してきたときを表す衝撃音)

(左の耳元で声にならない叫び)「ひいっ!」

(弱弱しく、泣きそうに)「もうっ、冒頭からこんなの反則よお……!」

「何、笑ってるのよー!」

「あーもー、そうよ。怖いわよ、こういうの!」

「幽霊だろうと何だろうと、怖いものは怖いのお!」

「でも、頑張って見てやるわよ……!」

「立派な大人として、ホラーを克服してやるんだから……!」

(SE:映画内のジャンプスケア音。悪霊の低いうなり声)

「いやあっ……!」

(主人公の左腕にしがみつく)

(半泣きで)「ううっ、心臓に悪いいっ……」

「でも、ストーリー面白いから目が離せないじゃないの……」


 シーン8 リビング(映画鑑賞後)

(SE:エンドロールで流れている暗いBGM)

(SE:テレビ電源を切った音)

「……はーっ、怖かったけどめちゃくちゃ面白かった……」

「そうね、何だかんだ楽しんじゃった」

「たまにはホラー映画もいいね」

「……って、幽霊なのに映画楽しんでるのも変よね。あはは」

「あの、さ」

「あたし、思ったんだけどね」

「……あっ。もう、寝てるの?」

(酔いつぶれた主人公、眠っている)

「あ~あ、いびきかいて寝ちゃって……」

「そこ布団じゃないでしょ。風邪ひくわよ」

「……はあ、さすがに成人男子抱えたりはできないよ」

(美春お姉さん、主人公の頬を叩いて起こそうとする)

「ほら、一瞬でいいから起きなさ~い」

「布団までほんのちょっとしか……」

「えっ、ちょっ」

「きゃっ……」

(うつらうつらしている主人公、美春お姉さんを両腕で抱きしめながら寝ている)

「……もう、この子ったら」

「本当、子供みたいなんだから」

「……ふふっ、かわいいからいいけど」

(右の耳元で囁く)「さっきはね、大事な話しようと思ったの」

「君と一緒にいるのはすごく楽しいんだけど」

「このままでいいのかなって迷ってたんだよね、正直」

「幽霊のあたしに時間使うよりさ。普通に人間の女の子の彼女作った方が幸せになれるんじゃないかなって」

「君は優しいし、気遣いもできるからさ」

「彼女ができたら、その子のこと絶対幸せにできると思うの」

「だから。あたしが、ここで身を引いちゃった方が君のためなのかな」

「……って、思ったんだけどさー」

(苦笑交じりで)「今の君見たらそんな気持ちも吹っ飛んじゃった」

「もうちょっと君のこと、お世話してもいいよね?」

「……いつかは嫌でもお別れするときが来るかもしれないしねー」

「……うん。寝顔が笑ってるからよしとする!」

「はい、暗い話終わり!」

「……うぐぐ。せっかく抱き枕にしてもらってるところ悪いけど、一旦通り抜けるわよっ」

(美春お姉さん、主人公の両腕から通り抜ける)

(SE:美春お姉さんが通り抜ける、ひゅ~という音)

「しっかし、布団までどうしよー?」

「はあ。しょうがない、ひきずってくしかないかー」

(くすりと笑って)「……本当、手がかかる子なんだから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る