第3話 寝物語、それから、天使の声の子守歌。

シーン3 明かりの消された寝室


(主人公、布団のなかで携帯をいじっている)

「……ちょっとー?」

(布団をめくると、美春お姉さんが心配そうに見ている)

「布団の中でスマホいじると、目に悪いぞ~」

「液晶画面から出るブルーライトって、眠れなくさせちゃうんだから」

(主人公、諦めてスマホを枕元に置く)

「……それでよし!」

「寝る前のネットサーフィン、幸せにあふれてるけどね~」

「なーに、眠れないの?」

「じゃあ、君が寝付くまであたしが添い寝しててあげようか?」

(美春お姉さん、主人公の右隣に添い寝する)

(主人公、布団をかけようとする)

「大丈夫よ、お布団かけなくても。風邪とかひかないし」

「布団と枕がいらない代わり、あたしに変なこともできないけどね! ふふふ」

(美春お姉さん、右耳に優しい声で囁く)

「さっ、目閉じて」

「寝るときはね、深呼吸するのがいいのよ」

「大きく息を吸って……。吐いて……」

「何も考えないで、目を閉じて」

「そうそう、良い感じ」

(主人公、何度も寝返りを打つ)

「……なんだか寝苦しそうねー」

「もしかしてさ、寝るときにその日あった嫌なこととか考えちゃったりする?」

(主人公、頷く)

「あるよね、そういうとき」

「あのとき、なんであんなしょうもないミスしちゃったんだろうなーとか、もっとああいう風に言えばよかったなー、みたいな」

「……でも、そういうのは今考えなくていいのよ」

「今はただ、お布団にいられる幸せをかみしめて……」

(主人公、思いついたように美春お姉さんに呼びかける)

「ん? 何?」

「あたしが死んだときのこと知りたい?」

「……えー、寝物語には暗すぎない?」

「別にタブーとかじゃないけど。……はあ、しょうがないなあ」

「じゃあ、それ聞いたらおとなしく目閉じて寝るのよ? 約束ね?」

(主人公、頷く)

「……自分でもあんまり覚えてないんだけど、体調不良が続いてたんだよね」

「咳が止まらなかったりとか、ちょっとだるかったりして、何日か会社休んで」

「家で寝てたら、そのうち高熱とかも出始めちゃってさー。そろそろ病院とかいかないとやばいかなー、でも身体動かないなーと思ったら、そこから先の記憶がなくて」

「気がついたら、布団の中で死んでる自分の姿を上から見下ろしてた」

「ちょうど冬のころだったな。だから、今のあたし長袖着てるでしょ。死んじゃったときの服装そのままなの」

「……時期的にインフルエンザとかだったんだろうな、って今になっては思うわ。早めに病院行ってれば、まだ生きてたかもね」

「はい、あたしの身の上話これにておしまーい」

(主人公、黙り込む)

「ほら、寝る前に聞くには暗すぎるって言ったでしょ」

「いいよ、別に。こんなこと言うのも変だけど、あたしも誰かに話してすっきりしたところはあるからね」

「あはは。確かに、幽霊から死んだときのこと聞けるのって、結構貴重かも」

「今こうして過ごしてるのはどうかって?」

「……うーん、それなりかなあ」

「あー、もしかして『幽霊になったら楽なんじゃないか』とか考えてるー?」

(主人公、図星)

「ダーメ。死なないで人生を謳歌するのが一番楽しいんだから」

「生きてたときはもちろん大変なことも多かったけど、自分の好きなことに時間使ったりできるのは今のあたしじゃ無理なんだよ。何となく、それはわかるでしょ?」

「死んじゃってからは心の底から後悔してる」

(美春お姉さん、小声でぼそりと独り言のように喋る)

「……それに、君とは生きてたときに出会いたかったし」

(主人公、聞き返す)

「な、何でもないっ! 独り言よ!」

「本当に大したこと言ってないからっ!」

「えー、こほんっ」

「と、とにかく、君の人生を無我夢中で生きなさい、ってこと!」

「ねえ、せっかくだし子守歌でも歌ってあげようか?」

「こう見えて、学生時代は合唱部でソプラノ担当だったんだからね!」

「……ふーんふふーん、ふーんふふーん♪」

(美春お姉さん、子守歌を歌う)

「声きれい? ……ありがと」

「伊達に合唱はやってなかったからねー」

(主人公、手を握っていてほしいと頼む)

「……いいけど、ひんやりするよ?」

「そっ、わかった」

「君って結構甘えんぼさんなのねー」

「うそうそ。いいんだよ、全然」

「君が安心できるんなら、いくらでもこうしててあげる」

(主人公、寝付く)

「……ふふふ、寝顔かわいいのね」

(右耳に囁く)

「おやすみなさい」

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