狐の呼ぶ声

 今回も母が広島にいた時の話になります。ですが、母が亡くなってからもうかなりになりますし、ちょっと覚えていない部分もあり、もしかしたらちょっと違うことを書いていて、私の創作が混ざる可能性もありますのでご了承ください。というか半分は創作かもと思ってくださるとありがたいです。


 ああ、こういう小さいこととかが聞けない時にずんとさびしさが来ますね。本当に些細なことを「これどうやったっけ?」って聞けない時に。


 やはりまだ当時の母が小学校か中学校か、そのあたりのことだと思います。どうしてだったか友人2人とどこかにおつかいか、もしくは誰かがおつかいで偶然会って一緒に歩いたとか、そういう感じだったようで、女の子3人で田舎の道を歩いていました。


 時間は午後ですが、夕方というほど暗くはない。女の子3人できゃっきゃとお話しながら目的地まで歩いていました。


 すると、なぜだか知らない池のところに来てしまった。いなかのことです、そういうこともあるでしょう。道を少しはずれると違うところに行ってしまったなんてこと。それに行ったのは池ですから、普段はやぶなどに隠れていて、何かのはずみに見つけることもあると思います。危ないですが、子どもの水の事故なんて、そういうことで起きることもありそうです。


 とにかくそんな池のほとりに着いてしまった3人、とりあえず元の道に戻ろうと思った時、それまで明るかった空がさあっと雲に覆われて薄暗くなってきた。


「気持ち悪いし早く戻ろう」


 そう言って池に背中を向けて立ち去ろうとしたその時、おつかいの荷物を持っていた女の子の様子が変になりました。


「いっぱい、いっぱいおるけん!」


 広島弁でそう叫んで、ふらふらと池の方に進もうとする。


「ちょっと、何がおるん? 何もおらんよ!」


 目の前には池があるばかりで誰も何もいない。母ともう一人の女の子が必死で池に行こうとする子をつかんで引き戻そうとするのですが、えらい力で2人をひきずったままで池の方に歩き続ける。


 このままだったら3人とも池に入ってしまう! なんとかしないとと思うけど、どうやっても引き戻せない。


 その時です、


「わお~ん!」


 どこか遠くから犬の鳴き声が聞こえました。


 その途端、それまで池に向かって歩いていた女の子が、


「え、なにしよん?」


 ふっと我に返りました。


 するとそれまで薄暗かった空もさあっと晴れ、それまで見ていたいつもの風景に戻ったんです。


 もちろん池はありましたが、そんな誰かを呼びそうな怖い池ではなく、普通の池にしか見えません。


 その後は無事に元の道に戻って目的の場所に行くことができたんですが、あれは一体なんだったんだろうと母も不思議そうに言うばかり。


 もしかしたら、おつかいに行く子の荷物の中は、狐が好きないなり寿司だったりしなかったかなと、ふと思ったりもしますが、それこそもう誰にも分かりません。


 会話や色々なことはほぼ私の創作ですが、いきなり空が薄暗くなったこと、母ともう一人の女の子が、いきなり「いっぱいおるけん」と言って池に入っていこうとした子を必死でとめたこと、犬が鳴いて正気に戻ったことは実際にあったことです。一体何があったんでしょうね。やっぱり狐が呼んだとしか私には思えない出来事でした。


 

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