景色のいい墓所
前回の「運命の取り替えっこ」で、
「母は不思議な夢を見る人だった」
と書きましたが、そのうちの一つのエピソードを書いてみたいと思います。
何回か書いいますが、うちは父親は元はサラリーマンで、私が中学を卒業して高校生になる時に、勤め人を辞めて独立することになり、須磨からもうちょっと西に引っ越すことになりました。
その前まで住んでいた団地では、もう少し小さい頃までは1階、2階、そしてうちの3階と全部の家に妹と同じ学年の子どもがいたことからか、親戚のように仲良くしていたんですが、中学に入った頃にまず1階の人が、それから2階の人が引っ越して他の人がその部屋に入ってきました。引っ越してからもその2軒の方とは仲良くしてて、同じように行き来をしてたんですが、その後うちも引っ越し、色々とお互いに事情が変わってからは前のように遊ぶことはなくなり、年賀状やもう少し何かのお付き合いをするだけになりましたが、まあそれも仕方がないことでしょう。
その一階に今度は少し年配のおじさんと、かなり年が離れたおばさんの夫婦が入ってきて、今度はそのお宅とも仲良く行き来するようになりました。
うちはもう中学生ですが、そのお宅は下の子が生まれたばかり、そして上が2つか3つ上の男の子2人兄弟でした。
そこのおじさんは中央市場か何かに勤めていて、早く出勤して早く帰る仕事の方でした。おじさんが帰ってきたらおばさんが今度はパートに出る、そんな生活をされていたので、子どもはお昼の間はおじさんが世話をする感じです。
そのおじさんがですね、いわゆる、
「
だったんです。しかも顔に子どもの頃の事故でできたちょっとした傷があり、申し訳ないけどぱっと見たら「その筋の人」に見えるような方。最初のうちは「一体どういう人が引っ越してきたのか」と、色々と心配もしたものです。そういうお仕事だと知らないと、いつも家にいて奥さんを働かせて遊んでいる人、に見えないこともありませんし。
ですが、いざ付き合うようになってみたら、ものすごく子煩悩で優しい方でした。そういう職場で勤めているということで、料理もうまくて、私も色々と料理を教えてもらったりもしました。
そしてここが面白いんですが、仕事が終わるのが早いので、帰ってきたら子どもを連れてうちの家に来てることが多いんですよ。中学から帰ってきたら、そのおじさんとちびさんが「おかえり~」と迎えてくれることもしばしば。ですが、それまでも前の2軒の家とそんな感じだったので、そういう状況も特に何とも思わずに、こちらも「ただいま~」と帰ってきてましたし。
そのうち父が仕事を辞めると言い出して、私が中学3年の後半には、もう父も家にいることも多く、帰って来るとそのおじさんと父が話しをしていて、その近くでちびさんが2人遊んでいるということもしょっちゅうでした。
うちが引っ越す時には、そのちびさんの下の方がいなくなって、どうしたのかと思ったらうちがいなくなるのがさびしくて、トイレに隠れて泣いているなんてこともありました。そのぐらい仲良くしていたんですね。
引っ越してきてからも遊びに来てくれたんですが、うちが引っ越してからそう何年もしないうちにそのおじさんが病気で亡くなってしまったんです。
最後に来てくれた時、汁そば、いわゆるラーメンを作って出したんですが、その時にもやしを入れ忘れて出してしまい、「今度来てくれた時はちゃんともやし入れるから」と約束したんですが、その約束も果たせぬままの出来事でした。
それからさらに何年かが経ち、ある日母がそのおじさんの夢を見たと言い出しました。
「どこかは分からないが山の上の方で、そこにおじさんがいて海の方を見ながら『引っ越したけどすごくここが気にいってる、海が見えてとても気分がいい。おかあちゃんに感謝している』と言っていた」
という夢でした。
それからほどなくして、そこのおばさんから電話がかかってきたんです。
特にしょっちゅう電話をしあってるわけではないんですが、その時には突然おばさんが何かの用があって電話をしてきたんですね。そして母が、ふと「そういえばこんな夢を見た」と言った途端、おばさんが、
「小椋さん……」
と、絶句してしまったそうです。あ、もちろん「小椋」はペンネームなのでおばさんが言ったのはうちの本名です。一応。
その様子に驚いた母が理由を聞くとこんなことでした。
実はお墓を移動したのだとか。そしておばさんはそのことをずっと気にしていたらしいのです。
「勝手にあそこにお墓を移動して、お父さんが怒ってないのかずっと気になっていた」
というその墓所は、母が夢に見た通り、高い山の上にあり、海がよく見える場所でした。
きっと、近々おばさんが電話をしてくることが分かっていて、おじさんが自分は喜んでいるということを伝えてほしかったんだろうなという話になり、おばさんもすごく喜んでいたそうです。
もしかしたら本当は全く関係なくて、母がその前に見たテレビか何かの影響で見た夢かも知れません。それでも、おじさんが伝えてほしかったんだろうなと考える方がなんだか自然な、そういう夢だったと思います。
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