背後にいるなにか
これも私の実際の体験で、小学校5年生か6年生の時の体験になります。そしてこれをヒントに短編集「小椋夏己のア・ラ・カルト」にも1本書いていますので、もしかしたら「聞いたことがある話だな」と思う方もあるかも知れませんが、ここでは創作ではなく、本当にあったことを書いてみましょうか。
上にも書いた通り、小学校5年生か6年生のある夏の夕暮れの出来事でした。
当時住んでいたのは団地の3階の部屋。なぜだか1階と2階のお宅と仲が良く、何かがあるといつもその3軒と、時には他の部屋の方も一緒になってなんやかんやと遊びに行ったり集まったりすることが多かった。
そしてそんな環境だったので、玄関のドアも結構鍵をかけてなくて、「◯◯ちゃんいるー」などと、近所のおばさんがひょこっと顔を出すのも普通という環境でした。
ですがその夕方、なぜだか私は一人でお留守番。部屋の作りは6畳の部屋が2つとそれよりちょっと大きいぐらいのダイニングキッチンの3部屋です。それからかなり大きなベランダが横一直線に付いていました。そんな作りの団地です。
私と妹の子ども部屋は北の和室。窓から北側に建っているもう一つの建物が見えるそんな位置に勉強机を並べておいてありました。北側の建物は、何しろ神戸は坂の街です、うちの部屋の3階がそちらの1階という感じで、ちょうど向かいの部屋に同じ学年の子がいて、両方が窓を開けると手を振って挨拶ができるような位置関係でした。
夏のことで窓を開けて机に座り、私は勉強などせず、マンガの本を読んでいました。
「うしろの百太郎」
説明するまでもなく怖いマンガの巨匠、つのだじろうさんの名作ホラーです。怖いマンガ好きなんですよ。今でも読みますし当時もよく読んでました。そして怖い番組も好きだったんですが、妹が泣いて嫌がるぐらい怖い話が嫌いだったので、こんなマンガを読んでると露骨に嫌そうな顔をされていました。
そろそろ部屋の電気をつけようかなと思うぐらいに薄暗くなってきた室内で、私は怖い漫画を一人でゾクゾクしながら読んでいました。そしてそのお話のラストページ、今もくっきりとその絵が浮かびますが、多分主人公の一太郎の後ろの壁だかふすまだかに、怖い何かの大きな顔が3つ大きく浮かび上がるところでその回は終わり、次回に続くのページまで読みました。
「怖いなあ」
お話はよく覚えてないんですが、自分が気がつかないのに後ろにそんな大きな顔が3つ浮かび上がる絵がページいっぱいに描いてある。
「一太郎、うしろうしろー!」
とか言われて振り向いたら、思わず失神してしまうかも。
もちろん絵もばっちり覚えてます。それほど印象的なページでした。
そこまで読み終わり、ふと顔を上げたら外はまだなんとなく明るいけど室内はもう薄暗くなってきている。机の電気は点けてるので、手元は明るいけど室内はみるみる暗くなってくる。なんとなく怖い話には最高のシチュエーションでした。
その時、
「バサバサバサ……」
私の背後でそんな音がしました。
(え、誰?)
父は仕事でまだ帰ってないし、母と妹はどうしてだったか出かけてて家には私一人。団地だったのでペット不可で動物なんていないし、動くものなんてないはずなのに、なんでか後ろでそんな音と何かが動く気配。
すぐに音がやんだので、気のせいかなと思ったんですが、そう思っていたらまた後ろで、
「バサバサバサ……」
音の最後の方が消えるようにして同じ音と気配が。
(なんで? 誰?)
怖くて怖くて動けない。そして手元にはさっきの怖いページを開いたまま。
こういう時って外の音まで消えるような感じなんですよね。たまたまでしょうが窓の外に見える景色の中にも人っ子一人いない。まるで世界に私と、その背後で動く何かだけみたいな感じ。
マンガの中にあった3つの大きな顔が、背後にある壁に浮かんでいるような、そんな感じがして震えがきそうでした。
そうしてかたまっていると、また背後で、
「バサバサバサ……」
同じ音と気配が、したような気がするけど、なんかちょっと違う。
例えば最初の「バサバサバサ……」が右から左だとすると、2回目の「バサバサバサ……」は左から右へ向かって移動したような感じ。そして3回目はまた右から左。
(何かが後ろを行ったり来たりしてる?)
そう考えたらまたぞっとして体が冷たくなった気がしたんですが、そこまでになってやっと思い出しました。
「あ、扇風機か」
扇風機が首を振り、その風が後ろの壁にかけてあるカレンダーをめくってました。だから行ったり来たりしてたんですね。
「よ、よかった……」
いそいで部屋の電気をつけて明るくなったらもう怖くなくなった!
「家で一人でいる時、しかも薄暗くなってきた時間帯に怖いマンガなんて読んじゃいけないな」
などと反省するわけもなく、それからも何度も怖いマンガや怖い話を見たり聞いたりして、同じようにビクッとすることを繰り返してましたが、その中でもこの時のことは今でも忘れられないぐらい怖い経験となりました。
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