第3話 心のメロディ

放課後の学校。校舎の外では部活の掛け声やボールが打ち合う音が響き、夕焼けが空を赤く染めていた。翔太は教室の片隅で、いつものようにギターケースを開け、ゆっくりとギターを取り出した。玲奈とのやり取りで心に浮かんだメロディが、頭の中で何度も繰り返されていた。


昨日、玲奈との会話の中で感じた「SUPERNOVA」という言葉。その言葉は、ただの映画のタイトルにとどまらず、自分たちの関係に深く結びついているように感じられた。まるで二人の間で新しい何かが始まろうとしているような、そんな予感が翔太の胸に響いていた。


窓から差し込む夕日の光がギターの弦に反射し、部屋の中で柔らかな輝きを放っている。翔太はゆっくりと弦を弾き、心の中で感じている想いを音に乗せようとした。しかし、うまく言葉にならない思いが、音になってもどこか不完全で、何かが足りないと感じていた。


「…これじゃダメだな。」


独り言をつぶやきながら、翔太はギターを抱えて立ち上がった。頭の中で繰り返されるメロディを形にするためには、何かもっと具体的なインスピレーションが必要だと感じていた。ふと、玲奈の姿が頭に浮かんだ。彼女の言葉、仕草、そしてあの特有の静かな微笑みが、メロディに色を与える鍵なのかもしれない。


ギターを持ったまま、翔太は教室を出て廊下を歩き始めた。夕方の校舎は静かで、どこか物寂しさを感じさせる雰囲気が漂っていた。外に出ると、風が吹いて髪が揺れ、少しひんやりとした空気が肌に触れた。


翔太は歩きながら、昨日の出来事を思い出していた。玲奈との会話、屋上での静かな時間、そして心に生まれた新たな感情。それらが一つに結びつき、彼の中で強くなっていた。


「玲奈…今、何をしてるんだろう?」


自然とつぶやいたその言葉に、自分自身も驚いた。玲奈のことがこんなにも気になるなんて、以前の自分では考えられなかったことだ。しかし、今はその感情が全く嫌ではなく、むしろ心地よささえ感じていた。


気がつくと、翔太は玲奈のいるはずの教室の前に立っていた。ドアは少しだけ開いており、教室の中には誰もいないことが分かる。玲奈がどこにいるのか分からなかったが、自然と足が動いてしまっていた。


「もしかして…」


翔太は教室のドアを静かに開け、中に入った。夕日が差し込む教室は、柔らかなオレンジ色に染まっていた。玲奈の席には誰もいないが、その空間に彼女の存在感が感じられるような気がした。


ふと、窓の外を見ると、屋上に続く階段の前に玲奈の姿が見えた。彼女は一人で立っていて、夕日を背にして空を見上げていた。その姿は、まるでこの世界とは少しだけ違う次元に存在しているような、そんな不思議な感覚を与えていた。


翔太はゆっくりと教室を出て、玲奈のいる場所へと向かった。階段を上ると、玲奈がふとこちらを振り返り、微笑んだ。


「水嶋くん…どうしてここに?」


「いや、なんとなく…玲奈がここにいるんじゃないかって思ったんだ。」


玲奈は小さく頷き、再び空を見上げた。その姿を見て、翔太はギターを持っていることを思い出し、何か弾いてみるべきだと感じた。


「玲奈、ちょっとだけ聞いてもらってもいいかな?」


玲奈は驚いたように翔太を見つめたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「うん、もちろん。」


翔太は屋上に座り、ギターを膝の上に乗せた。彼の指が弦に触れると、優しい音色が夕暮れの空気に溶け込んでいく。メロディは自然と口ずさまれ、昨日感じた想いがそのまま音になって流れていった。


玲奈は静かに耳を傾け、翔太の奏でる音楽に身を委ねた。その瞳は遠くの空を見つめていたが、その心は翔太の音に寄り添っているように見えた。


「…とても綺麗な音色だね。」


曲が終わると、玲奈は静かにそう言った。その言葉に、翔太は少しだけ照れくさそうに笑った。


「ありがとう。でも、まだ完成していないんだ。何かが足りない気がして…。」


玲奈は翔太の言葉に頷きながら、ふと考え込んだ。そして、静かに口を開いた。


「水嶋くん…私はね、この音楽に何かを感じる。でも、それが何なのかは分からない。だけど、きっとそれは私たちが見つけなきゃいけないものなんだと思う。」


その言葉は、まるで自分自身に問いかけられているように感じた。玲奈が言う「何か」は、彼女がずっと感じていた“大きなこと”なのかもしれない。翔太はその言葉を心に刻み、決意を新たにした。


「そうだね…玲奈が言う通り、俺たちで見つけに行こう。」


その言葉に玲奈は頷き、二人は再び空を見上げた。日が沈みかけた空には、星が一つ、また一つと輝き始めていた。その星々が、二人にとっての新しい旅立ちの象徴のように見えた。


これからどんな未来が待っているのか、二人にはまだ分からない。しかし、共に歩んでいく決意がある限り、どんな困難も乗り越えられると信じていた。


翔太はギターを背負い、玲奈と並んで屋上から降りる道を歩き始めた。二人の影が夕日に伸びていくその光景は、これから始まる新たな物語の幕開けを予感させた。

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