第4話 星の導き

翌日、学校の廊下にはいつも通りの喧騒が広がっていた。翔太はクラスメイトたちと軽く挨拶を交わしながら、自分の席に着いた。しかし、昨日の玲奈との屋上での出来事が頭から離れず、心はどこか落ち着かない。玲奈と共有したあの瞬間、そして彼女の言葉が、ずっと心に響いていた。


授業が始まり、教室には先生の声と筆記音が響き渡ったが、翔太の意識はどこか遠くにあった。ノートを開きながらも、頭の中では昨日のメロディが繰り返されていた。玲奈が感じた「何か」を、どうにかして音楽で表現したいという思いが強くなっていたのだ。


授業が終わり、昼休みになると、翔太は一人で中庭に向かった。昼の光が暖かく、ベンチに腰を下ろしてギターを取り出した。指が弦に触れると、自然と昨日のメロディが再び流れ出したが、やはりどこか不完全で、何かが足りないと感じる。


その時、背後から聞き慣れた声が聞こえた。「水嶋くん、またギター弾いてるんだね。」


振り向くと、そこには玲奈が立っていた。彼女は優しく微笑みながら、翔太の隣に座った。翔太は少し驚いたが、同時に彼女の存在が心強く感じられた。


「玲奈…昨日のこと、ずっと考えてたんだ。君が言った“何か”を、俺は音楽で見つけたいんだけど、どうすればいいのか分からなくて…。」


玲奈は翔太の言葉に真剣な表情で頷いた。「うん、それは簡単なことじゃないと思う。でも、私も一緒に考えるよ。きっと二人なら、何かを見つけられると思うから。」


その言葉に勇気づけられた翔太は、再びギターの弦に触れ、メロディを奏で始めた。玲奈はその音に耳を傾けながら、目を閉じて静かに聞いていた。音楽は、言葉にできない感情や思いを伝える特別な力を持っている。玲奈の表情が、その音にどんな感情を抱いているのかを示していた。


やがて、玲奈が目を開けて静かに口を開いた。「水嶋くん、そのメロディはとても綺麗だけど、少し寂しさが感じられるね。でも、それが君の今の気持ちなのかな?」


その言葉に翔太は少し驚いた。玲奈は、自分の心の奥底にある感情を見抜いていたのだ。彼女の言葉に励まされると同時に、さらに深く自分を見つめ直す必要があると感じた。


「玲奈の言う通りかもしれない。俺、もしかしたらずっと寂しいって感じてたのかもしれない。音楽で表現したいことがあっても、その気持ちをどこかで恐れていたんだと思う。」


玲奈はその言葉に優しく微笑み、翔太の肩に軽く手を置いた。「大丈夫だよ、水嶋くん。どんな気持ちでも、音楽に乗せることができる。それが君の強さなんだから。」


その言葉に、翔太の中で何かが変わった。自分の中にある寂しさや不安を、隠すのではなく受け入れて、音楽に変えることができると感じたのだ。そして、玲奈が隣にいることで、その思いを形にする力が湧いてくるのを感じた。


「ありがとう、玲奈。君がいてくれるから、俺ももっと頑張れるよ。」


玲奈は静かに微笑み、再び目を閉じて音楽に身を委ねた。翔太は彼女のために、そして自分自身のために、メロディを奏で続けた。中庭に響くギターの音色は、次第に力強さを増し、昼下がりの暖かな空気に溶け込んでいった。


その日の放課後、二人は再び屋上に向かった。夕日が校舎を赤く染める中、玲奈は静かに空を見上げていた。その姿は、昨日と同じように神秘的で、何か特別なものを感じさせる雰囲気を持っていた。


翔太もまた、同じ場所に立ち、空を見つめた。昨日と同じ景色だが、今日の彼には少し違った感覚があった。自分の中で芽生えた新たな決意が、景色を変えて見せているようだった。


「玲奈、今日はもっと特別な音楽を奏でてみたいんだ。」


玲奈はその言葉に頷き、期待するように翔太を見つめた。翔太はギターを構え、深呼吸をしてから、静かに弦を弾き始めた。音楽は昨日よりも確かな力を持ち、彼の心の奥底から湧き出る感情をそのまま音に乗せていた。


玲奈はその音楽に耳を傾けながら、少しずつ心が解きほぐされていくのを感じていた。翔太が紡ぎ出すメロディには、彼の感情がそのまま反映されていて、玲奈の心にも直接響いていた。


曲が終わると、玲奈は静かに目を開けた。その瞳には、何か新たな決意が浮かんでいるように見えた。


「水嶋くん、その音楽、とても素敵だよ。でも、まだ完成じゃないよね?」


その言葉に翔太は頷いた。「そうだね。まだ何かが足りない。でも、その“何か”を玲奈と一緒に見つけたいんだ。」


玲奈は微笑みながら、翔太の手をそっと握った。「私も一緒に探すよ。私たちなら、きっと見つけられると思うから。」


その瞬間、二人の間に強い絆が生まれたことを翔太は感じた。玲奈と共に、音楽を通じて自分たちの感情を見つめ直し、新たな未来を切り開いていく。その決意が、翔太の中で確信へと変わった。


「ありがとう、玲奈。これからもよろしく頼むよ。」


玲奈はその言葉に静かに頷き、再び空を見上げた。夕日が完全に沈み、夜の帳が降り始める中、星々が輝きを増していく。二人はその星空を見上げながら、これから始まる新たな旅路を心に描いていた。


やがて、夜空に輝く一つの星が、二人の目に留まった。それは、まるで彼らの未来を導くかのように、強く輝いていた。

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