第2話 夜空に咲く星々

月が高く昇り、街の灯りが薄れ始めた夜。翔太は自室の窓を開け、冷たい夜風を感じながらぼんやりと星空を眺めていた。空は澄んでいて、無数の星々が輝いている。そんな夜空を見つめながら、翔太は今日一日の出来事を思い返していた。


玲奈との一日が、心の中で深く刻まれていた。彼女の言葉、表情、そしてその独特な雰囲気が、翔太にとって特別な意味を持つようになっていた。そして、彼女が感じていた“大きなこと”が、何なのかを知りたいという気持ちが強くなっていた。


携帯電話が震える音で、翔太は現実に引き戻された。ディスプレイを見ると、クラスの友達である健太からのメッセージが届いていた。


「今日、楽しかったな!またみんなで遊ぼうぜ!」


短いメッセージに、翔太は自然と笑みを浮かべた。今日の一日は確かに楽しかったが、翔太の心の中には、それ以上のものがあった。玲奈と過ごした時間が、他のクラスメイトとの時間とは違う重みを持っていたからだ。


返信を送り、携帯を置いた翔太は再び窓の外に目をやった。星空は変わらず美しいが、翔太の心の中には一つの疑問が浮かび上がってきた。


「玲奈は今、何をしているんだろう?」


その疑問が、翔太の中で次第に大きくなり、気がつくと彼は玲奈にメッセージを送ることを考えていた。しかし、すぐにためらいが生まれた。玲奈に何を伝えるべきなのか、何を聞くべきなのかが分からなかったからだ。


考え込んでいるうちに、突然携帯が再び震えた。ディスプレイに映し出されたのは、なんと玲奈からのメッセージだった。


「今、夜空を見てるんだけど…何か話したくなって、水嶋くんにメッセージしちゃった。」


驚きと喜びが一気に押し寄せてきた。まさに玲奈が自分と同じことを考えていたのだと思うと、翔太の胸が高鳴った。


「俺も、今ちょうど夜空を見てたよ。すごい偶然だな。」


メッセージを送り返すと、すぐに返事が来た。


「やっぱり、何か繋がってるのかもしれないね。今日はありがとう。水嶋くんと話せて、なんだか心が軽くなった気がする。」


玲奈のメッセージは、翔太の心に温かさをもたらした。玲奈が自分と同じように感じていたことが分かり、少しだけ彼女との距離が縮まったように感じた。


「俺も楽しかったよ。玲奈のおかげで、色々と考えることができたし。ありがとう。」


その瞬間、翔太は玲奈との会話が、これまでとは違う特別な意味を持つことを実感した。彼女との繋がりが、単なるクラスメイト以上のものに変わり始めているのだ。


夜が深まり、静寂が部屋を包み込んでいく。翔太は玲奈とのメッセージのやり取りを続けながら、いつもとは違う心の高鳴りを感じていた。玲奈が自分にとってどんな存在なのかを、少しずつ理解し始めていた。


翌朝、翔太はいつもより早く目を覚ました。昨夜の出来事が頭の中で鮮明に蘇り、自然と心が弾んだ。しかし、同時に少しの不安も感じていた。玲奈との関係が変わりつつあることを自覚し、その先に何が待っているのかが見えなかったからだ。


学校に到着すると、翔太は教室に向かいながら心の中で玲奈を探していた。昨日の出来事が、二人の間にどんな変化をもたらしているのかを確かめたかった。


教室に入ると、すでに玲奈が席についていた。彼女は窓の外を見つめていて、いつものように静かな雰囲気を纏っていた。しかし、翔太が近づくと、玲奈はふと顔を上げて彼に微笑んだ。


「おはよう、水嶋くん。」


「おはよう、玲奈。」


何気ない挨拶だったが、その瞬間に昨日の夜の会話が蘇り、二人の間に微妙な空気が漂った。しかし、その空気は決して不快なものではなく、むしろ心地よい緊張感を伴っていた。


「昨日の夜、メッセージありがとう。なんだか、不思議な気分だったよ。」


翔太が言うと、玲奈は少し恥ずかしそうに頷いた。


「こちらこそ。水嶋くんと話すと、いつも不思議な気持ちになるの。でも、それが悪いことじゃないって思える。」


玲奈の言葉は、翔太の胸に深く響いた。彼女も同じように感じていることが分かり、二人の間に確かな繋がりがあることを再確認した。


その日、授業中も翔太は玲奈のことが気になって仕方がなかった。彼女が何を考えているのか、どんな気持ちでいるのかをもっと知りたくて、授業に集中できなかった。何度か玲奈の方に目をやると、彼女もふと翔太の方を見て微笑むことがあった。それが二人の間の距離を徐々に縮めていった。


昼休み、翔太は玲奈に誘われて屋上に向かった。屋上は風が強かったが、澄み切った青空が広がっており、心が解放されるような感覚があった。二人は並んでフェンスにもたれかかり、無言のまま空を見上げた。


「なんだか、こうしてると昨日の夜のことを思い出すね。」


玲奈がぽつりと言うと、翔太は頷いた。


「うん。あの夜空、綺麗だったな。」


玲奈はふと、遠くの雲を眺めながらつぶやいた。


「水嶋くん、昨日の映画のこと、どう思った?」


その問いに翔太は少し考え込んだ。昨日観た『SUPERNOVA』は、ただの青春映画ではなかった。それは、人々の心の中に秘められた感情が爆発する瞬間を描いていた。まるで、玲奈が言っていた“大きなこと”が具現化したかのような映画だった。


「映画の中の登場人物たちが、色んな感情を抱えながら最後に大きな変化を迎える…なんだか、それが俺たちにも起こるんじゃないかって、ちょっと思ったんだ。」


玲奈は翔太の言葉に頷き、静かに目を閉じた。


「私も同じことを感じたよ。私たちの人生も、あの映画みたいに何かが起こるんだろうね。でも、それが何なのかはまだ分からない。」


その言葉には、どこか確信めいたものがあった。玲奈が感じている“大きなこと”が、ただの直感や思い込みではなく、何かもっと深いものに基づいているように感じられた。


「玲奈が言ってた“大きなこと”って、もしかして…私たちにとっての“SUPERNOVA”みたいなものなのかな?」


翔太の問いかけに、玲奈は少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。


「そうかもしれない。でも、その瞬間が来るのを待つだけじゃなくて、自分たちで何かを始めることも大事なんじゃないかな。」


その言葉が、翔太の中で一つの決意を生んだ。玲奈との繋がりをもっと深め、共に“大きなこと”に立ち向かうために、自分から動き出す必要があると感じたのだ。


放課後、玲奈と別れてから、翔太はそのまま家に帰ることができなかった。何かが心に引っかかっていたのだ。それは、玲奈との会話の中で感じた“SUPERNOVA”という言葉に対する漠然とした期待と不安だった。


自宅に戻ると、翔太はギターケースを取り出し、弦を弾いてみた。久しぶりに触れるギターの感触が、彼の心を落ち着かせた。そして、玲奈の言葉を思い出しながら、静かにメロディを奏で始めた。


その音色は、まるで玲奈との繋がりを表現するかのように、静かでありながら力強く響いた。そして、翔太は一つの決意を胸に秘めた。玲奈と共に、これから何が起こるかを見届けるために、自分自身も動き出すのだと。

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