第27話 日常
「み...兄...。」
「んんぅ...。」
意識がハッキリとしない。
暗闇の中で、誰かの声が聞こえる。
「みず兄!」
「グフェッ!」
脇腹に鋭い痛みが走った瞬間、俺の脳は痛みによって覚醒を起こす。
目を開けて、真っ先に目についたのは、俺の脇腹に突きをくらわせてきた、パジャマ姿の澪だった。
「いって...!何すんだよ!」
「もぅ、何回呼んでも起きないんだもん!てか時間!もう6時30分だよ?」
「はぁ?まだ、6時30分じゃねーか!!」
「昨日、みず兄が早く起こしてって言ったから起こしてるんだけど、何?」
澪の冷たい目と表情が、まだ完全に回っていない脳に刺激を与える。
俺の妹は、怒らせると謎の威圧感を醸し出す。
いや、威圧感というより、まるでゴミを見る目と表情によって、その威圧感が醸し出されているのだ。
「んー、あっ、そうだったな。ごめんごめん。」
「はぁ。もう、ちゃんとしてよね。」
そう言って、部屋を出ていく澪の後ろ姿を目で追いながら、パンツと下着だけで寝ていた自分の体に、簡単な服を着せて、部屋を出る。
澪は、いつも部活の朝練がある為、6時には家を出るが、どうやら最近月曜日と金曜日だけは朝練がなくなったらしく、登校時間ギリギリまで、家にいる。
そのせいで、前まで母しかいない時には、パンツ一丁で一階に降りれていた事が、できなくなってしまった。
この前、パンツ一丁で降りた時も、またさっきの様に冷ややかな目と表情で射殺されてしまった。
俺はその時から決めたのだ。
澪がいる日は、服を着て降りようと。
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人が4.5人程度座って、食卓を囲めるほどのテーブルに、俺と母がいつも通りの位置で座る。
今日は澪がいる為、俺とは反対の位置で目玉焼きと食パン、それに牛乳を並べて、パクパクと食べている。
こういう、家族で食卓を囲むのが母は好きな様で、俺は1人で良い、と何回も言ったが、「こういう時間は、みっくんとみっちゃんが大人になったら作れないんだから。」などと言って、いつも強引に席に着かされるのだ。
「澪?醤油、とってくれ。」
「えー?取れる距離でしょ?もー、はい。」
「あんがと。」
「もー、みっくん。自分で取りなさい。」
「はいはい。」
まぁ、口で言うほど、俺もこの日常の風景というかルーティンは、嫌いではない為、わざわざ反抗はしないんだが。
「ねぇ。何で、みず兄、今日早く起こしてって、言ってきたの?別に何もしてないじゃん。」
そう食パンと牛乳を交互に飲みながら、目を少し大きく上げながら、澪が尋ねる。
「んー、それはな...。これだ。」
俺がテレビの方を指差すと、丁度俺のお目当ての番組が始まっていた。
アナウンサーが、「今日の運勢占いはー?」と、数秒溜めた後、下から順番に星座を発表していく。
「え?何、みず兄...運勢占いのために朝早く起こしてくれなんて言ってたの?え、キモッ。」
「フフッ。みっくんったら、可愛いんだから。」
「フッ、バカだな。2人共...この運勢占いは当たるんだよ...。」
そんな会話を2人と交わしていると、いつの間にか、1位の発表にまで進んでいた。
「今日の1位は〜?かに座のアナター!ラッキーアイテムは、クマさんのキーホルダーです〜!」
「くっ、俺は10位か。」
こういう日は、あまり良い事が起きない。
あの海の日も11位。ボランティアの日も10位だったのだから。
「えっ、私1位じゃん。丁度クマさんキーホルダー持ってるし、やばー!」
「あら、凄いじゃない。みっちゃん!」
「...。」
うん。
俺の妹は運まで強いらしい。
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「行ってきまーす。」
「行ってくる。」
「はーい。頑張ってねー!」
澪の後ろから、少し遅れて靴を履き、外へ出る。
最近、夏の暑さがより一層増してきて、辛い。
太陽光から焼かれて日干しになってしまいそうだ。
「みず兄、じゃあ、頑張ってね〜。」
「おぅ、お前もな。」
そう言って、澪は右側へ、俺は左側へと足を進める。
澪の中学校と、高校は反対方向なため、すぐ別れてしまうのは少し寂しいが、これを澪に言うと「シスコン?きもっ。」と言われるのは目に見えているので、やめている。
そんな事を考えながら、少し微笑を浮かべて歩いていると、左側から「おーい!頼水ぅー!」という声が聞こえてくる。
いつもながらのシルエット...佐伯裕一だった。
「はぁ...はよ。」
「何だよ、そのため息は!あーあれか、妹と一緒に学校行けないからだろ?」
「ち、違うわ!」
「ふっ、図星か。」
「...。」
佐伯のニチャニチャ笑いを無視しながら、俺は早足で学校へ向かう。
今日に限って、朝から暑すぎるのは、何かの予兆か何かだろうか。
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