第26話 ボランティアは終わり...。


「なぁ、澪?」


「んー?」


久しぶりに自室へと戻ってきた安心感と幸福感、その両方に包まれながら、俺は絨毯の上で寝転ぶ妹に声を掛ける。


「明日からまた学校が始まるぞ...。」


「え?それが?」


また俺の漫画を勝手に盗み見ている澪はキョトン、とした顔で俺の方を見る。


「いや、ダルいだろ?」


「んー?別に?逆に学校ないとつまんなくない?」


「...?」


そう半笑いで、俺に疑問風に投げかける澪。


え??

コイツ、本当に俺の妹なのでしょうか?


「学校ないとつまんない。」なんて普通に頭がおかしいとしか言いようがない。


学校=ダルイ。

これが普通じゃないのか?


「まぁ、今週は楽しかったよねー。さっちゃん先輩とお泊まりできたしー、杏里ちゃんとも少しだけ仲良くなれたしねー。」


「え?何、杏里ちゃんって...?」


「え?都治巳、先輩?」


今更ながら、コイツのコミュ力には驚かされる。

会って1.2日で、あの都治巳杏里が自分よりも歳下の女の子に下の名前+ちゃん呼びを許すとは。


怖い。

我が妹ながら、俺と正反対な生き物すぎて怖すぎる。


「マジか...あの都治巳杏里が、下の名前で呼ばせるなんて...お前、凄すぎだろ。」


「...?結構、普通なんじゃないの?さっちゃん先輩にも下の名前で言いよーって言ってたし、何か先輩って付けられるのが、嫌なんだってよ?」


「あ、そう...。」


「みず兄も、杏里ちゃんと仲良いし、杏里。なんて言ってみたら?フフッ。メチャクチャキモいけど...。フフッ。」


「おいおい、お兄ちゃんをからかうとバチが当たるんだぞ。ん?てか俺と都治巳、さんは仲が良いっていう事はないけどな?」


「え?良さげじゃん?」


「え?違うよ?」


「そうなんだぁー。」


「...。」


ダメな男を見る様な冷たい目をする澪。

棒読みな所が意外と効く。


俺と都治巳杏里の仲は少しは良くなった、と自分でも実感はしているが、ほぼ初対面の状態でアンタは嫌い、と真正面から言われたのだ。


初っ端から好感度の低い俺がいくら頑張っても都治巳杏里の周りの人間の初対面の時と同等の仲位しか築けないのではないか、という俺の思考はあながち間違ってはいないはずだ。


「まぁ、ボランティアも無事に終わったし、良かったんじゃない?」


「まぁな。」


2日にわたるボランティア活動。

それが今日の夕方をもって終了した。


昨日と同じく、2ペアに別れてまた同じ作業を行ったが、今日は以上に登山客が多く、少しでも、佐伯とのコミュニケーションを取らねば、と思っていた俺の思惑が完全に打ち壊されてしまった。


まぁ、休憩時間に少しだけ話す時間があったからそこは良しとしよう。


昨日、やたらと元気のなかった都治巳杏里も次の日には無性にやる気が出てきたのか、1日目とは打って変わって、作業に集中していた。


そうやって、登山客の多さに急かされたおかげで、1日目よりも体感は早く終わった為、何かとサッパリとした気分でボランティア活動をやり遂げることができた。


「それにしても疲れたなぁー。」


「いや、みず兄、マトモに動いてなかったじゃん...後半はさっちゃん先輩1人で回してた様なもんでしょ、あれ。」


「フフッ、バカめ。物事には縁の下の力持ちっていうことわざがある様に、支える人間が必要なんだよ。で、それが俺だったって事で、作業をしていなかった訳ではない。」


「あーはいはい。」


俺の言い訳染みた言葉を適当にあしらう澪に、「そろそろ寝ろよ。」と丁度11時を指す時計を指差して言うと、「あー、はいはい。この漫画借りるからー。」と勢いよく立ち上がって、澪は自室へと戻っていった。


まだ起きておく元気があるのだろうか。

もう尊敬するレベルだ。


当然、俺にはそんな元気はない為、澪が開けっぱなしで出ていったドアを閉めて、電気を消し、布団に横たわる。


「はぁ...。」


本当にいろんな事があった。

濃い2日間を思い返しながら、目を閉じる。


相当疲れていたのか、体感数十秒で俺の意識は暗闇へと吸い込まれていった。

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