第25話 夜のテラスで その2
「佐伯さんと、話せたのね?」
「え?あぁ、まぁな。」
カップを右手に、物憂げな様子で、呟くように言う都治巳杏里。
俺は彼女の表情に違和感を感じながらも同意の言葉を返す。
「そぅ、頼水君ってすごい人だったのね...」
「え?」
「佐伯さんが言ってたのよ...。」
佐伯の奴、よりにもよって都治巳杏里に言うとは...もしかして、俺が泣いた事も言ったのだろうか?
そうだとしたら恥ずかしすぎる。
一生物の黒歴史誕生の危機だ。
「あの、他には?」
「ん?何よ...?他にって。」
「いや、佐伯が俺について何か言ってなかったか?」
「他にって...あぁ、そういうこと...。」
何だその笑顔は。
まるでニチャアという効果音が付きそうな笑みで俺を見る都治巳杏里。
やばい。
何か嫌な予感がしすぎる。
「アンタ、佐伯さんの事好きなんでしょ?」
「はぁ?」
どうやら俺の予感は的中していたらしい。
「フフッ。分かるわよ。恋って辛いわよね〜。引いてもダメなら押してみろ、なんて言うけど、そんなの当てにならないし。」
「いやいや、待て待て待て!」
俺は大袈裟にカップを置いて、弁明を図ろうとするが、俺の方を見ようともしない。
「私は、振られた事のある側の人間よ。アンタが振られたって受け入れてあげる器くらいあるんだから、もう勢いで告白しちゃいなさいよ。」
「はぁ...。」
「...何よ?」
早口でベラベラと喋り疲れたのか、一旦息を置いて、俺の反応に疑問の声をあげる。
「いや、だから、佐伯の事は、後輩というか、友達?としては当然好きだけど、その...恋愛的なものじゃない。」
「ププッ、無理しちゃって...。」
やっぱりコイツはムカつく。
「だからー!」
「はいはい。わかったわかった。」
「その感じ、分かってないだろ。」
「フフッ。」
分かってるのか、分かっていないのか。
半笑いでお茶を飲む、都治巳杏里だったが、やはり何かあったのだろうか?
いつもより表情が暗い様に感じる。
「何だよ...。何かあったのか?」
「え?」
驚いた様に俺をみて、少し大胆にカップを置く都治巳杏里。
「いや、何だか雰囲気がさ...いつもとは違うなって。」
「何よ。いきなり...。そんなに態度に出てた?」
「いや、出てはないけどさ...。」
「じゃあ、何で分かったのよ。」
「いや...。」
その後の言葉が出てこない。
都治巳杏里の言うとおり、何故俺は彼女が元気がないという事が分かったのだろうか。
見ていたから?
何を言っても語弊を生みそうだ。
「いや、何で分かったのって聞く時点で、何かあったって言ってる様なもんだろ?」
「...?それもそうね。」
我ながら、これは天才すぎる切り返しなのでは??
「んー、そうね。まぁ、あれよ。言いたい事を言えるっていいな、ってね。アンタ達2人を見たら思っただけよ。」
「そ、そうか?」
「えぇ。」
本当にそれだけなのだろうか?
もっと深く聞いてみたい欲求に襲われたが、これ以上詮索するのは、相手が女子なだけにやめておく。
「...。」
「...。」
何だ、この絶妙な間は。
居た堪れない空気になり、俺は「そろそろ寝るか?」と提案を投げかけたが、都治巳杏里が「私はまだ眠くないから、ここにいる。」と言って椅子から立とうとしない。
一緒にいた方が良いのだろうか?などは一応考えたが、都治巳杏里自身も今の空気で一緒にいるのは嫌だろう、という結論に至り、俺は椅子から立ち上がる。
「おやすみ、頼水君。」
「あぁ、おやすみ。」
そう言って、テラスの窓を閉めると、透明ドアの向こうに座っている都治巳杏里は、お茶を飲みながら、空を見ていた。
何を見ているのか気になり、都治巳杏里が見ている所を見てみると、綺麗な満月が、夜を照らしていた。
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