第24話 夜のテラスで その1


「ふわぁ...。」


人間は何故、考えことがあると眠れなくなるのだろうか。

まぁ、これは俺だけかもしれないが...。


暗闇の中で何度も、寝ようとはするが、目を瞑ると今日の俺のダサすぎるエピソードを鮮明に思い出してしまう為、寝ては起きての繰り返しをしていた。


「んんぅ...。」


佐伯と川に落ちたあの後、別荘に戻った俺たちは、佐伯と俺が順番に風呂に入るのを待って、夜ご飯を食べた。


正直、佐伯とは少し話しづらかったが、佐伯の方から俺に話しかけてきてくれたりと、後輩に気遣いをしてもらい事なきを得た。


「てか、後輩に気を遣われるなんて、クソダサくないか。」


いつもの俺もダサいが、今日の俺は特段ダサいといえるだろう。

そんなことを考えていると、段々と脳が活性化し、遂には目がガン開き状態になってしまった。


「はぁ...寝れん!」


そんな独り言を呟きながら、俺は自分の部屋を出る。

風に当たれば少しは落ち着くだろうか?



------------


この別荘には、1階と2階にテラスがある。

俺は、1階の部屋で寝ていた為、その階のテラスに向かう。


テラスに向かうまでに、都治巳杏里の部屋の近くを通らなければ行けない為、起こさない様に忍び足で前を通る。


部屋の明かりも消えている為、寝たのだろう。


その調子で、ベランダまで向かうと、壁に差し掛けてある時計が1時30分を指していた。


明日のボランティアが8時30分から始まる、準備時間と目的地まで行く時間を考慮して7時には起きなければいけない。

今からテラスに出て、優雅にお茶でも飲んでいたら、2時は超えるだろう。

そして寝付くのに30分はかかるとして...。


マズイ。

5時間しか眠れないのは確実にマズイ。


俺は7時間程度、眠らないとコンディションが悪くなってしまうタチなのだ。


「戻るか...。」


そう呟いて、眠る気のない体をベランダから自分の部屋へと向け直そうとした、その時だった。


「頼水君?」


「うふぇ?!」


後ろ側からいきなり声を掛けられて、俺は体を反転させながら前へと突き出す様に動く。


「ちょっと何よ、その反応...。私が幽霊か何かとでも思ったわけ?」


「...ふぇ?」


強気な言動。

腰に手を置いて、高圧的に俺を見る都治巳杏里がそこには居た。


「ふぇ?って何よ、ふぇ?って。」


「いやいや、いきなり後ろから声掛けられたらビビるから。」


「...?ビビんないでしょ。普通?」


「え?」


何を言っているのだろうか、コイツは。

普通の人間なら、俺の様な反応を取ると思うんだが。


「私はビビんないわよ。」


「そ、そう。」


最近、都治巳杏里と一緒にいる事が多い為、ほんの少しだけ彼女の事が分かってきた。

外見は認めたくないが、美少女だ。


だが、外見は美少女でも内面が美少女な訳ではない。

そう、この都治巳杏里という女は、内面が脳筋...いや男寄りなのである。


もしかしたら、普通の俺の様な男子よりも、彼女の方が肝が据わっているのかもしれない。

まぁ、一本ネジが外れている可能性も無きにしも非ずだが。


「何で、こんな時間にここに居るのよ。」


「...いやそっちこそ。」


「私は...あれよ。ちょっと眠れなくてね。」


「...。」


都治巳杏里の口から思ってもない言葉が出てきた事に少し唖然としながら「俺も、そんな感じかな。」と少しの間の後に返す。


「そうなの?んー、じゃ、あっちでちょっと話さない?」


「ん?あぁ。」


まさか、都治巳杏里から誘われるとは。

寝付けない程の悩みか何かでも、あるのだろうか。


「あ、お茶ー!注いできてー!」


「シーッ!みんな寝てるから。」


「あ、ごめんごめん!じゃ、ハーブティーで。」


「いや、ないからな?」


「えー?」


そうやって後ろで手を組みながらテラスに出ていく都治巳杏里に、はぁ、と溜め息を吐きながら、冷蔵庫からお茶を取り出し、戸棚に入っている適当なカップに注ぐ。


「早くー。」


「あぁ。」


俺は、2つのカップを持ちながら、テラスの方へと早足で向かう。


テラスへと続く、透明なドアを開ける様に背中で押さえながら、都治巳杏里は腕を組んで待っている。


「置いとくぞ。」


俺がそう言って、テラスにある机の上にお茶の入ったカップを置く。


「ふむ、ご苦労。」


俺がカップを置くと、都治巳杏里はそんな事を言って、俺が通った後のドアを右手で閉めて、机を囲う様に置いてある、向かい合って座る様に設置された椅子へと腰をかける。


「気持ちいいわね。」


「あぁ。」


サラサラな髪が風に揺られて、髪を抑える都治巳杏里。

何だ、その神秘感は。


そんな事を考えていると、白の上下の寝巻きが、やけに大人びて見えてしまい、心臓の音が少しだけ早くなった気がした。


「ねぇ...頼水君。」


「ん?」


俺の方を向いた都治巳杏里の顔はやけに真剣味を帯びていた。

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