第22話 向き合わないといけない。


「やっぱり、ここにいた。」


「え?何で分かったの?澪ちゃん?」


「フフッ。さっちゃん先輩って、病んだら絶対、海に行くんですけど、この近くに海はないから、川かなーって...半分は賭けみたいなものでしたけど...。」


「そ、そっか...。」


佐伯が居なくなったと知った、俺と都治巳杏里が別荘を出ようとしていた時、丁度澪から佐伯がここにいる、と連絡があった。

そこは別荘から4.5分歩いた先にある、山から流れている川の下流に位置する所であり、観光用に木製の足場や川に関する雑学的な看板が立っていた。


そんな、木製の足場の上で1人、体育座りをしながら川を見つめいている少女がいる。


佐伯だ。


この4.5分間程、俺たち3人は、佐伯に何と声をかけて良いのか分からず、茂みの中で息を潜めていた。


「もぅ、私が行くわよ!」


そう言って、我慢疲れたのか、茂みの中から勢いよく出ようとする都治巳杏里の腕を俺は、そっと掴む。


「いや、俺が...。」


「ちょっと...何よ。」


「俺が行くよ...。」


「そ、そう。」


いつもなら、俺の言葉を振り切って自分が行こうとする都治巳杏里だが、今日だけは察した様に、体勢を戻す。


「みず兄...ちゃんと、話し合ってね...。」


「あぁ。ごめんな、2人とも...。迷惑をかけて...。」


「何言ってんのよ...。友達でしょ?」


「あぁ。ありがとう。」


「フフッ、みず兄らしくないから...言っただけ...。」


「あぁ。澪もありがとう。」


そう言って、俺は茂みを出る。

俺のせいで、皆の雰囲気を壊してしまった。


女子3人で、夜、花火をする、と計画していたのを知っていたのに。


澪が皆で遊べると、色々な遊び道具を持ってきていたのも知っていた。


それを知った上で、俺は後先考えずに、佐伯に自分のエゴを押し付けてしまった。

ちょっと考えれば、後からどうなるか分かっていたはずなのに。


「...。」


俺の弱さが...過去に向き合う強さがなかったから。

皆に迷惑をかけてしまった。


「ふぅ...。」


向き合わないといけない。

過去に...佐伯に。


「うし...。」


心臓の音がうるさい。

まるで試合前の様な緊張感が俺を襲う。


やけに耳にとどく川の流れる音が、やけにうるさく感じる。


俺はいつからこんなに弱くなってしまったのだろうか?


------------


「佐伯...。」


「...。」


「佐伯...!」


「...?!」


俺の声に反応して、ビクッと驚いた様に俺の方を向く、佐伯。

その目元は、暗さで良くは見えなかったが、赤く腫れあがっている様に見えた。


泣いていたのだろうか?


「先輩...?何で、ここが?」


「...いや、まぁ...あれだ。運が良かったというか、何というか...。」


「グスッ、何ですか、それ。」


鼻声で、笑う佐伯。

それを見て、俺の中の罪悪感が増していく。


俺よりも一回りも小さい彼女に、俺は一体、何をムキになっていたのだろうか。


何で俺は...。


「ごめんな...いきなり。驚いたろ?」


「い、いぇ。そんなことないです。」


「そ、そうか。」


「...。」


「...。」


そこから、何と切り出して良いのか分からず、俺と佐伯の間に数秒の間ができる。


「あの、何かあったんですか?」


間に耐えきれなくなったのか、最初に口火を切ったのは佐伯の方だった。


「いや、少し話をな...。」


「話、ですか...。」


心臓の音がうるさい。


「あぁ...。」


何と言えば良いのだろうか。

頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。


「あの...私から...先に良いですか?」


「...あ、え?...あぁ。」


予想外の佐伯の言葉に、動揺を隠せずに、しどろもどろになりながら、首を縦に振る。


「私は...。」


その言葉の先が聞きたくもあり、聞きたくもない。

そんな歪な感情に埋め尽くされる。


周りで泣いている虫の声がやけにうるさく感じた。

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