第21話 弱さ


俺と佐伯が一拍遅れて別荘に戻ると、既に都治巳杏里と、澪が台所に立って夕飯の準備をしていた。


「さっちゃん先輩も一緒に作る?!」


そう澪が、俺の後ろから入ってきた佐伯に尋ねるが、佐伯は顔を曇らせたまま、「ごめん。ちょっと私は良いかな?」と無理のある笑顔で言う。


「体調、悪いの?」


都治巳杏里が心配そうな声で尋ねると、佐伯が「はい。ちょっと...先に部屋に戻っても...?」と返し、都治巳杏里から了承を得た後2階の自分の部屋に階段を登って姿を消した。


「ちょっと...!何??喧嘩でもしたの??」


ズカズカと足音を立てながら俺に近寄ってくる都治巳杏里。

その顔は、驚きに満ちていた。


「いや...まぁ。そうだな...。俺が悪いんだ。」


「はぁ??どういう事?あっ、もしかして、アンタ...セクハラでもしたの?」


「いや、何でだよ。」


「じゃあ、何よ?」


「...それは言えない。でも俺が一方的に突っかかった。それだけだ。」


「はぁ...?まぁ、思春期の男女には良くある事よね。」


「いや、貴方も俺と同じ歳ですよ?」


「フフッ。私はね、アンタよりも精神年齢が上なのよ...。」


「うわぁ...。」


「何よ、その反応?!」


「...まぁ、俺も部屋に戻るわ...ごめんな。雰囲気悪くして。」


「それは良いんだけど...。ご飯は?」


「あー、ごめん。まだ大丈夫。」


「そう。」


そう言って、1階奥にある部屋に行こうと、都治巳杏里に背中を向けて歩き出そうとしていた。


「ねぇ...みず兄。」


「...?」


澪の声によって、俺のその場に立ち止まる。


「何があったか、知らないけど...仲良く...してよね。」


「...あぁ。ごめん。」


そう言い残して、俺は、罪悪感から早足でその場を立ち去る。

妹にあんな悲しい顔をさせてしまった...。

都治巳杏里にも心配をかけて、佐伯を一方的に突き放してしまった。


俺は、何をしているのだろうか?

どうしても、自分の弱さに腹が立つ。


「はぁ...。」


黒に染まった部屋に入り、入り口付近に付けられた電気のスイッチを押す。

部屋が明かりで照らされると、そこには、2人でも十分寝られそうな大きさの寝心地の良さそうなベッドと、丸型の黒い絨毯。


まるでホテルの様な作りをした部屋に、少しだけ興奮しながらも、他に目もくれず、絨毯の上に寝転がり目を閉じる。


今日は色んな事があった。

ヘビ、過去、佐伯。


「疲れた...。」


そう呟きながら、目を瞑ると、佐伯の悲しそうな顔が、脳裏に浮かぶ。


「はぁ...。」


俺は、やっぱり馬鹿だ。

過去とも向き合えず、ひたすらに逃げ続けた。

あの事件...でもそうだった。


「...。」


時間を空けて、佐伯に謝ろう。

そう思いながら、また目を瞑る。


今だけは暗闇が心地よかった。


---------


「...っと!」


「んんぅ...。」


「ちょっと!!」


「ッ?!」


体を揺さぶられて、目を覚ます。

どうやら声も聞こえない程、寝入っていた様だ。


「な、何だよ!」


目の前に居たのは、都治巳杏里だった。


「もぅ、死んでるかと思ったじゃないッ!!」


「いや、寝てただけだから。」


そう必死な声で、怒った様に言う都治巳杏里に、少し違和感を感じた。

果たして、彼女が俺を心配して部屋にまで入ってくるだろうか?


答えは否だ。


「まぁ、そんなことはどうでも良いのよ。」


ほらね?

というか、何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか?


「佐伯さんが、部屋から居なくなったのッ!!」


どうやら、俺の予感は当たっていたらしい。

どこからどう見ても、佐伯が居なくなったのは俺のせいだ。


「...。いつから?」


「2.30分前までは、澪ちゃんと話してたから...分からないわよ!!いつの間にか居なくなってたのよ!」


「...。じゃあ...まだ近くにいるはずだ。」


「何でそんな冷静なのよ?!」


「いや、逆に冷静になるというか。」


「はぁ?!私がおかしいみたいじゃない!」


「いや、そんなことは...。」


「もぅ!行くわよ!」


「ん、あぁ。」


外に目を向けると、太陽は落ちきって黒に染まっていた。

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