第20話 佐伯幸の告白 その1


ヘビ事件が起きた後、俺と佐伯はボランティアを行っていた山の入り口付近へと戻った。

この日は、登山客も少なく、ほぼ立ち座りのまま時が進み、丁度夕日が落ちる頃合いになった。


「頼水先輩。」


「...?」


「そろそろ時間なので、戻りましょう。」


「あ、あぁ。」


佐伯は、あのヘビ騒動から元気がない。

体調が悪いのか、と聞いてはみたが頑なに「大丈夫です。」としか言わない。


見た感じも体調には異変はないため、それ以上心配の声はかけなかったが、やはり空気が重いのだ。


この数時間、登山客もいなかった為、2人でいる時間が多かったがその間、殆ど会話を交わしていない。


「せ、先輩!」


「お、おぅ?!な、なんだ?」


いきなり大声を出して、俺を呼ぶ佐伯に動揺しながらも先輩としての威厳を保つために、平成を装う。


まぁ、佐伯の表情をみるに、装えていなかったんだろうが。


「す、すみません。クスッ。」


何故俺の周りにいる女子は、俺の反応を見て笑うのだろうか。

もしかして、相当キモかったりするのか?俺の挙動は。


そうならば、とてつもなくショックなんだが。


「ん、んぅ...それでどうしたんだ?」


「あ、あの。私...先輩に憧れていたんです!」


「...は?」


いきなり発せられた佐伯の「憧れていたんです。」という言葉に俺は一拍置いて、反応する。


佐伯の奴、俺をイジっているのだろうか。


「私、中学の時から、先輩の走りが好きで...。」


「...。」


やめろ。


「私、先輩に憧れて、同じ高校に...。」


やめてくれ...。


「この高校...。」


俺は...。


「もう、やめてくれ、佐伯。」


「え?」


「俺はお前が思ってる様な奴じゃないよ。」


「...そんなこと。」


「あるんだよ...。」


前を、佐伯の顔も見ることすらできずに、下を向いて、否定の言葉を並べ、吐き出す。


「俺はさ...ただの馬鹿野郎なんだよ...自分が天才か何かだと勘違いして、調子乗ってただけのな。」


「そ、そんな...。」


「あるんだよッ!」


俺は叫ぶ様に佐伯の言葉を遮る。


「ご、ごめんなさい...。」


「...ごめん。」


ただの八つ当たりだと、分かっている。

自分が1つ歳下の女子に当たり散らかす、最低なクズ野郎って事も。


それでも自分の過去を否定せずにはいられなかった。


帰り道の道中、何も話さずに、無言で別荘に戻った。


ー事件が起きたのは、そのすぐ後だったー

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