第19話 悲鳴とヘビ その2
「...おい、押すなよッ!」
「押さないわよ!!」
後ろにいる3人に、諭す様に言うと、都治巳杏里の怒声が帰ってきた。
澪を見てみると、何故かウィンクをしながら右手の親指を上げているが、その意図は分からない。
かっこいい所を見せろ、的な事を言いたいのだろうか?
もうすでに、足がガクガクで棒を持っている右手も震えているというのに。
「ふぅ...。」
そっと息を吐いて、ヘビを見る。
青みがかった色をしていて、体長はそんなにデカくはない。
マムシなどは頭が三角形に近い、と何処かで見た事があるが、このヘビの頭は素人目だが、角ばっている様に見える。
口を開けて威嚇してくるヘビ。
多分、アオダイショウか何かだろうが、毒を持っているか、いないか分からない以上、安易に近づきすぎるのは得策じゃないだろう。
ならば、こんな木の棒を使うのは危険すぎる。
それに、正直あんまり近くでヘビを見たくはない。
もうちょっと距離を取ろうと、後ろに下がった時、足元がジャラ、と音を立てる。
下に目を向けると、地面一体に小石が落ちていた。
「これだ...。」
「ちょっと!大丈夫?頼水君!」
「あぁ。」
後ろのガヤを適当に流して、俺は小石を手の中に十分に詰め込んで、また2.3歩、距離を取る。
「オラッ!」
掛け声と共に、俺の手から放出された小石達が、ヘビに向けて猛威を振るう。
小石が1.2個程当たったのか、「シューー。」という音を出しながら、山の中に逃げて行った。
ヘビの逃げ去る後ろ姿に少しの罪悪感を抱きながら、俺は「はぁ...。」と肩を撫で下ろす。
「よ、頼水君!大丈夫?噛まれたりしてない?」
そう言って、近寄ってくる都治巳杏里。
「先輩!大丈夫ですか!」
「みず兄...震えてた...ぶぷっ。」
その後に続いて俺に寄ってくる佐伯と元いた場所でクスクスと笑い続ける澪。
コイツは、爬虫類でも平気系女子なのに関わらず、俺に押し付けてきたのだ。
とりあえず、澪だけは許してはいけない。
どんな復讐をしてやろうか、と様々なアイデアを指で顎を触りながら考えていると、都治巳杏里も現状に安心したのか、俺の顔を見て「ブフッ。」と笑いの声を上げる。
「何だよ?」
「頼水く..ん..。ブフッ、震えてたから、ちょっと思い出したら、笑いがね...ププッ。」
「...。」
どうやら復讐相手がもう1人増えた様だ。
「よし、まぁ、もう大丈夫だろ。俺と佐伯は戻るから。」
「え、えぇ。ありがとう。」
都治巳杏里は、少し戸惑いながらも感謝の言葉を投げかけてきた、が、俺はさっきの事を忘れてはいない。
「あぁ...。」
だが、それを察せられない様に平然を装っておく。
コイツには、色々と貸しがあるため、良い復讐ができそうだ。
「フフッ...。」
「え?頼水君...本当に大丈夫?」
「あ、あぁ。」
いけない。
つい笑いが漏れてしまった。
「そ、そう。」
「よし、それじゃ!頑張ってね、みず兄。」
「あぁ。」
やけに楽しそうな澪に、少し動揺する俺。
我が妹ながら、澪が今、何を考えているのかすら分からない。
とりあえず、早くお暇しよう。
復讐方法を模索しなければ。
「フフッ...。あっ、よし!行くか!佐伯。」
「...はい...。」
山の中は暗く、佐伯の表情は見えなかったが、返事をした声色は暗く、表情も良くは見えなかったが、余り良い風には見えなかった。
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