第16話 ボランティア その1
「なぁ、都治巳...さん。」
「...?何よ。」
「俺たちって、山にボランティアをしに来たんだよな?」
「...そうだけど?」
「だよな...。で、何で、そんな荷物あんの?」
「え?今日分の着替えと、その他もろもろ?」
都治巳杏里は、荷物を置く為に用意された別荘の物置部屋で、今日1日分とはいえない量の荷物バッグを持ってきていた。
都治巳杏里からのメッセージで、持ってくる物などは聞いていたが、このボランティアの説明が佐伯からあった時に、俺がほぼ脳死状態にあった為、内容自体はまともに把握できていない。
どうやら、この「山」というのは登山ができる山で、登山客が頻繁に訪れる。という事しか。
「あ、そう。で、何で俺たちだけなんだろうな。」
「どういう事?」
「俺と都治巳...さんと、佐伯と澪。この4人だけしかいないから、さ?」
「...?4人だけでするボランティアなんだけど?ちゃんと話聞いてたの?」
「え?何それ。」
「はぁ、やっぱり聞いてなかったのね。あの日の頼水君、どこかおかしかったから聞いてないんじゃないか、って思ってたのよ。」
「...ごめん?」
「もう...。良い?今日のボランティアは、ゴミ拾いと、登山客の誘導と...何だったかしら...。後で幸ちゃんが話してくれるはずだけど...、まぁ私達4人で事足りるボランティアらしいわよ。」
「あぁ、そうなの...。」
お前も分かってなかったのか、と呆れ半分にボランティアの内容を聞いて、やはりこういう危険性のありそうなボランティアの時には、誰かしらの大人が最低1人は付くべきではないだろうか?
それとも、高校生だけでもこなせる様な、簡単なボランティアなのか。
「みず兄ー!杏里さーん!早くこっちきて!」
そんなことを考えていると、リビングの辺りから、我が妹でありながら、何故かパワープレイでメンバーに入り込んできた澪さんの声が聞こえた。
今時の若者はこんなにも行動力があるのか、と思いはしたが、よくよく考えてみると俺と2歳しか変わらない。
俺が省エネな性格すぎるのか、澪が積極的すぎるのか。
まぁ、どっちでも良いか。
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「よし、これで大体内容は掴めたと思いますが、皆さんどうでしょうか?」
俺とその他2人も、佐伯の言葉に首を縦に振って答える。
佐伯の話によれば、このボランティアは2人1組に分かれ、1組が山の入り口付近で見守りと必要があれば登山客を誘導し、もう1組が、危険領域までのゴミ拾いや危険物などが落ちていないかを確認する作業を行うらしい。
そしてペアの組み合わせは、俺と佐伯幸、都治巳杏里と澪に決まった。
正直、佐伯と一緒になるのは、嫌われていないと分かっても、無性に気まずい。
「よ、よろしくお願いします。頼水先輩。」
「あ、あぁ。よろしく。」
俺と佐伯は、余所余所しい空気を保ったまま、登山客の誘導と見守りに、支給されたオレンジの服と厚いジャケットを着て、山の入り口へと向かう。
「あの、、、。」
「ん?どうした?」
入り口へと向かう途中、佐伯が歩くスピードを緩めて、口を開く。
「ちょっと、唐突なんですが...。」
「...うん?」
え?何...怖い。
「私、貴方のこと嫌いです。」みたいな事を後輩から真正面で言われたら、泣いてしまう。
一度、都治巳杏里に、真正面から嫌いと言われたことはあるが、何故かアイツに言われても何ともなかった、が!
中学から高校にかけて交流があった人間にそんな事を言われてしまえば、立ち直れないだろう。
「...。」
ゴクンッ、と生唾を飲み込むが、心臓の音が何回も身体中に響いて、飲み込んだはずの生唾がまた上がってくる。
俺はこんなにメンタルが弱かったのか?と自問しながら、佐伯の口が開くまでのたったの数秒が何分にも感じてしまう感覚に陥る。
「あの...。」
「...。」ゴクンッ。
「頼水先輩って、やっぱり、都治巳先輩の事が好きなんですか?!」
「....はぁ?」
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