第14話 どうやら俺は嫌われているらしい。
「あの...。」
「...。」
静寂に満ちた教室の中に、俺と都治巳杏里、そして茶色がかった髪を肩まで伸ばし、陸上で引き締められたはずの筋肉によって磨かれた、無駄のないスタイルを誇る少女、佐伯幸がいた。
「ねぇ...何でこの子、ずっと黙ったままなのよ...。」
そうボソボソッと俺の耳元に向かって言う都治巳杏里。
「いや、俺も分からないんだよ...。」
「ちょっと、擽ったいわね!」
俺もボソボソッと言葉を返すと、耳を手で塞ぐ様にして、怒りの視線を向けてくる。
「いやいや、最初にしてきたのはお前だから。」
「はぁ?私は息が当たらない程度の距離をとって...」
「あのッ!!」
俺と都治巳杏里が揉めていると、根本的な問題を作り出した張本人が、口を開く。
「「...。」」
「えと...もしかして都治巳先輩って、頼水先輩と付き合ってるんですか?」
「「はい??」」
彼女から出てきた言葉が意外すぎて、俺と都治巳杏里はハモる様に声をあげる。
あのやり取りを聞いて、どうしたらそんな疑問が生まれるのだろうか?
「私と頼水君が??え?ないない。」
「...。」
そう真正面から言われると、そういう対象としてみていない相手からでも、多少は傷ついてしまう。
それが男という生き物なのだが、コイツは分かっていないらしい。
「ま、まぁな。」
俺は少し涙目になりながらも、一応は同調しておく。
「そ、そうですか!フフッ。私...あっ、都治巳先輩のファンなので...その。」
「そうなの...?ん...え?私のファン?」
「は、はい。あれです...。1年の中では有名なんですよ?都治巳先輩。美人で性格も良くて、勉強もできて...!」
そうキラキラと輝く目で都治巳杏里を見つめる佐伯幸。
俺は、会話に全くもって入る事が出来ずに、無言で2人のやり取りを見守る。
「えー、何ー?それ!もしかして、ファンクラブなんてものも出来ちゃったりしてる??」
「いや、ないですけど。」
「そ、そう。」
「フッ。」
「何、笑ってんのよ、、、」
「...。」
つい笑いが漏れてしまう俺に、都治巳杏里は恥ずかしさと怒りに満ちた表情と視線を向けてくる。
正直、この2人のやり取りは面白いので、このまま見守っても良いが、それでは時間がいくらあっても足りないため、俺が口火を切る。
「それで、佐伯は何でここに?」
話題を変えるために、佐伯に話を振った俺だが、「え?」という疑問の後に、顔を下に向けてまた佐伯は無言になってしまった。
俺は...もしかしてこの子に嫌われているのだろうか?
その考えに至った時、俺が彼女に会った時の思い出が鮮明に浮かんでくる。
「...。」
俺と佐伯幸は、最初に部活で会った時から今までで、仲が良くなるのではなく、逆にコミュニケーションを取りにくくなっている...。
これは、あれか。
俺の事が段々と嫌いになっていったのではないだろうか。
そうか、そうだったのか。
今までハマらなかったパズルのピースがハマっていく様に、俺の中で今までの佐伯幸とのやり取りの中で生じていた違和感が払拭されていく。
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「おぉ、佐伯。おはよう...。」
「...おはよう、ございます。」
「澪と遊ぶのか?」
「そう、ですね...。ハハッ。」
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あぁ、あぁぁ。
俺って嫌われてたんだ...。
あ、そっかぁ。
「佐伯さん?」
「...依頼というか、相談なんですけど...。」
「えぇ。」
「あの、山登りとかって興味あったりしますか?」
「え?山登り...?」
「はい。部活動の関係でボランティアを最低1つはしないといけないんですが...私が部活友達2人と応募していたボランティアが、私が定員を見間違えていて...そのボランティアをその友達2人に譲ったんです。そしたら、余っているボランティアがこの山登りのボランティアだけで...。部活友達以外にも一緒にボランティアに参加してほしいって言うのも、その...。だから、このお助け部に...。」
「あぁ、そういう事...?んー、良いわよ?」
「え??本当ですか?!」
「ねっ?頼水君!」
「...ん?あぁ。」
やばい、全然聞いていなかった。
「あ、ありがとうございます!!」
その後、何かを2人して話していたが、俺は後輩に嫌われていた、という新事実によって「あぁ。」ボットと化していた為、2人が何かと俺に話を振ってきていたが、正直何を話していたのか、所々しか覚えていない。
俺が虚無のまま、話は終わった様で、時計の針が5時30分を指した頃に、俺と女子2人は教室を出て、別々に別れた。
帰り道の道中、ふと下を向くと、涙が溢れ落ちそうだった為、なるべく上を向いて帰った。
ー夕日はやはり綺麗だー
ー追記ー
前話で、佐伯幸の名前が変換ミスで、違う名前に変換されていましたので、再編集させて頂きました。
申し訳ありません...!
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