第13話 日常の中で。
「ただいま。」
玄関の電気をつけて、一瞬立ち止まる。
入ると右側に置かれているシェルフに、朝とは違う観葉植物が置かれていることに気づき、少し眺めた後、いつも通り靴を脱ぐ動作に移る。
すると、ドアの開く音に気づいたのか、ドンドンドンッと走る音が聞こえた。
その足音は段々と近づいてきて、靴を脱いでいる俺の後ろで止まる。
「えー、今何時だと思ってんの?!」
「ん?いやー、ちょっと遊び行っててな。」
「はぁ??佐伯君?」
「んー、まぁそんなとこ。」
「...ふーん、そっ...で?アイスは??」
「は?」
アイス??
突然言われた言葉に意味を理解できず、靴を脱いだのと同じタイミングで後ろを向いて尋ねる。
「え?何言ってんの?お前。」
「はぁ??送ったでしょ?帰りにアイス買ってきてって...!!」
そう怒り気味に訴える俺の妹、
まぁ、俺が悪いのだが。
メッセージを見返すと、17分前、と右下に書かれていた。
17分間といえば、まだ都治巳杏里と電車で喋っていた所だっただろうか。
「ん?みず兄...もしかして、女?」
「は?」
突然立ち止まって、首を傾げる様にこちらを振り向く妹の目は、謎の殺気を放っていた。
何だ、女?とは。
「いや、匂いがさ...ちょっと違くない?女??」
「...え?」
匂い。
確かに、都治巳杏里と乗っていた時、何か良い匂いがするな、と思ってはいたが、そんな匂いがつく程、接近はしていないはずだ。
「んー?何だろ?フローラル系...の匂い。女じゃん。何?彼女できたの?」
「は、はぁ?!」
確かに女性には、よく不倫をしたのは匂いでバレる、とネットやテレビで言われているが、こんな多少の匂いの違いで分かってしまうものなのだろうか?
それとも、家の妹が鼻が効きすぎるだけなのだろうか?
「おい、待て...。」
「おかぁさーん〜!!みず兄がぁー、女作ってきたぁーー!」
「おい...。」
止めようとしたが、我が妹は俺の想定以上に脚力が進化していたらしい。
バタバタと、音を立てながら母の居るはずのリビングまで行くのを目で追いながら、俺も妹の後を追う様に、ゆっくりとリビングまでの道のりを歩く。
「えぇ?何言ってるの、みっちゃん。みっくんに彼女ができる筈ないでしょ〜?」
「えぇ?まぁ、確かにそうか...。」
何だか、俺に対して失礼すぎる会話が聞こえてきた。
俺だって、もう立派な高校2年生なのである。
彼女の1人や2人、できてもおかしくないではないか。
そんな事を考えながら、リビングに着いて、冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注ぐ。
ふと、何を見ていたのだろう、とテレビの方に目を向けると、俺の視線の右側に2つの影が見えた。
母と妹である。
「何してんだよ....。」
「いや、べ、別に〜。ねっ、みっちゃん。」
「うん、別に匂い嗅いでみようなんて、思ってないない。」
「いや、それ言っちゃダメよ。みっちゃん。」
そんな2人のいつも通りのやり取りに、水をゴクッと一飲みして、風呂場へ足を進める。
「ん?あー、そういえば、さっちゃん先輩が、明日みず兄の部活に行くってよ。」
「はぁ?何でいきなり?」
「いや、知らないけど...。」
妹の言葉に、一度足を止めた後、また風呂場へと歩き出す。
澪の言っていた、「さっちゃん先輩」というのは、俺が中学の時の陸上部の後輩だった1個下の少女で、名前は
男女で別れていた為、あまり接点は無かったが、後輩の中でも比較的、俺に話しかけに来てくれていた。
2つ下の澪が、俺と同じ中学で、同じ陸上部だった為、佐伯幸と澪が先輩後輩で仲が良かったのは俺自身もよく知っていて、高校生になっても時々、澪と遊ぶ際に、家に寄った佐伯幸と世間話をする程度にはコミュニケーションズはとっていた。
だが、何故そんなコミュニケーション程度しか取っていない後輩の兄兼、部活の先輩の所へ来るのだろうか?
とボソボソと呟きながら考えていたが、依頼の可能性の方が高く、それで落ち着いた。
それにしても、久々に外に出た為、体が重い。
「はぁ...。」
風呂に入るために、服を脱いでいると、二の腕がピクピクしているのが分かり、肩を揉みながら風呂場へと足を入れる。
とりあえず疲れた。
疲労のせいか、風呂の中でもそれしか考えられなかった。
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