第11話 必死に。



砂が口の中に入る感覚。

心臓がバクバクと大きな鼓動を打つ。


そんな感覚も吹き飛ぶ程、俺は必死に彼女の元へと全速力で駆け寄る。


「ハァ...ハァ...!」


「頼水君!!杏里がッ!」


橘莉奈が、俺に叫ぶ。


「ッ!!」


橘莉奈が必死に掴んでいたのはやはり、都治巳杏里の右手だった。

彼女に手を掴まれている都治巳杏里は、足に異常が発生したのか、左足を空いている手掴んで、顔だけを海上に上げおり、呼吸をするのもやっとの状態だった。


「ごめん。触るぞ。」


そう言って、俺は都治巳杏里の脇腹を抱き上げるように海から引き上げる。

海の深さは腰程度であり、都治巳杏里の身長ならば胸元辺りの深さだった。


橘莉奈も都治巳杏里と同程度の身長な為、腕を引っ張るので精一杯だったのだろう。


「ゴホッゴホッ。ごめん....なさい。」


水も飲んでしまったのか、喋りながらも咽せている都治巳杏里に、呼吸が落ち着いた頃合いで、「歩けるか?」と尋ねると、「足が攣っちゃって。」と彼女は首を振りながら答える。


この暑さの下で、1時間は海の中で遊んでいたのだ。

熱中症になっていてもおかしくはない。

コミュニケーションは一応取れているので、軽度だとは思うが、このまま太陽の下に居るのは体調が悪化してしまうだろう。


「ハァ、ハァ。おい、大丈夫か?!」


後から海の中に入ってきた佐伯が、そう言いながら俺の元に近づいてくる。


「おい、佐伯!都治巳さんの肩、持ってくれ!一旦、海から上がらないと!」


俺がそう言うと、佐伯も現状を理解したのか、都治巳杏里の側による。


それに合わせて、俺も都治巳杏里の左に寄って腕と腰を持ち、歩幅を合わせながら前に進む。


「ちょっと...恥ずかしいんだけど...!」


そう下を向きながら言う都治巳杏里。

確かに、俺がその立場でも恥ずかしい。


「あとちょっとだから、我慢してくれ。」


都治巳杏里の反応で、今まで焦りのせいで感じなかった都治巳杏里の腕の柔らかさや、華奢な体つきが手のひらで感じられて、こっちまで変に汗をかいてしまう。


「佐伯君、ごめんね。迷惑かけて...。」


「全然、大丈夫っすよ...!それよりも、ほらもうすぐ着くっすから。」


都治巳杏里の身長に合わせながら、半腰の様な形で前に進むが、これが中々疲れる。

佐伯も都治巳杏里と話しながら、息があがっているのが分かった。

まぁ、本人はカッコつけたい一心で平常を保っている様子だが。


「ハァ...ハァ。」と自分の足元付近を見ながら、進んでいく。


水の高さが、足元付近まで来た所で、鈴の音を彷彿とさせるかの様な、そんな高くもあって凛とした声が、前方から聞こえた。


「監視の人、連れて来たから!!」


その声に反応して、俺と佐伯は同時に顔を上げる。

前にいたのは、橘莉奈と黄色の服を着た監視の女性だった。


バシャバシャッと、監視の女性が海の中に入って来て、「変わるわ。」と言った後、都治巳杏里を背中に乗せて、海の家まで早足で向かう。


「ハァ....。ハァ....。」


俺と佐伯、2人共が海から出て、少しした砂場で背中から倒れる様に寝転ぶ。


「やばい。俺...今年分の体力使ったわ。」


「俺は...まだまだ余力あるけどな...。」


そんな事を言い合いながら、息を整える。

正直、今すぐ眠ってしまいたい程、体力を使い果たした。

それに、焦って全速力で走ったせいか、太ももがパンパンで、これ以上歩けない訳ではないが歩きたくはない。


そうやって、2.3分、2人で寝転がっていると、「ちょっと、大丈夫?!」と橘莉奈の心配そうな声が聞こえた。

すると、佐伯がバッと立ち上がり、近くまで来ていた橘莉奈に「おぅ!全然大丈夫!」などとカッコつけ始めたため、それに合わせて仕方なく俺もゆっくりと立ち上がる。


「ふぅ...。」


ベトベトとした身体中の汗が、風に当たって気持ちが良い。

そんな事を頭の片隅で考えながら、都治巳杏里が運ばれた海の家へと足を運ぶ。


「大丈夫...だよな...?!」


無自覚に口から発せられた、その言葉に戸惑いながら俺は足を進める。

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