第9話 海+水着=物探し?その2


「ッ!」


ピチッと何かに刺されたかの様な痛みが指先に伝わり、俺は痛みと同時に手を砂から上げる。


「だ、大丈夫?!頼水君!」


俺の一連の動作を見て声を上げたのは都治巳杏里だった。


「せ、先輩?!」


少し離れて探していた、斎藤さんも声を上げて、こっちに走ってくるが、俺は指先の些細な痛みよりも、斎藤さんの揺れ動くお山に集中がいっていた。


「ちょっと、血が出てるじゃない...。こっち...ついてきて...。斎藤さん...ごめんね。少しここで待っててくれる?」


「はい...。すみません。頼水先輩!」


「あぁ、大丈夫、大丈夫。全然痛くないから。」


そう言って、少し血の浮き出た指を揺らして見せていると、傷ついていない方の手を取って、都治巳杏里は海の家に向かって早足で動き出す。

当然、手を引かれている俺も彼女に連れられるがまま、歩くが、つい目線に困ってしまう。


前からしか見なかった為、気づかなかったが、この水着後ろから見ると中々に露出度が高いのだ。


「そんなに痛いの?」


「...。」


一度立ち止まり、そう眉を下げて、心配そうにこちらを伺う都治巳杏里に、ついドキッと心臓が高鳴ったのが分かった。


別に、惚れてしまった訳ではない。

ただ、少し露出の高い水着にドギマギしているだけに過ぎないのだ。


...そうに違いない。


「いや、あれだ。暑かった...から。」


「...そう、じゃあこれ。被っときなさい。」


そう言って、ポンッと自分の被っていた麦わら帽子を俺の頭の上に乗せる。


「これ...。お前が暑いだろ。」


「私は体力があるのよ、アンタと違って。それに私がやらせた事で怪我をしたんだから...。」


そう皮肉めいた事を言いながらも、その声色はいつもとは違って少し暗かった。


「別に、大丈夫だって...。てか素手でいった俺がバカだったんだよ。気にしないでくれ。」


「...。」


黙ったまま、手を引く都治巳杏里。

その横顔が俺には暗く見えた。


ーーーーーーーーーー


「よし、これでオーケイね!」


「イテッ。」


そう言って、消毒をした後に貼った絆創膏の上をパチッと軽くデコピンをする。


普通に痛いのでやめてほしい。


「はぁ...それにしても見つからないわね。」


「まぁ、そうだな...。てかもう大分、下の方に埋まってるのかもしれないな。」


「んー、そうね。もう日も落ちてきたし、そろそろ引き上げないと...。簡単に見つかると思ってたんだけど。」


「まぁ、場所とキーホルダーがどんな物かも教えてもらったし、明日探せば良いんじゃないか。」


「よし、じゃあ泳ぎましょうか!」


「え??お前...泳ぐつもりはないって。」


「はぁ?バカじゃないの?海に来たらとりあえず泳ぐのよ。これ鉄則よ?覚えときなさい。」


やはり都治巳杏里は都治巳杏里だったらしい。


「あー、分かった、分かった...ん?」


ふと、都治巳杏里から目を外して、木造で作られた海の家の外壁を見た。

そこには、物干し竿の10分の1程の長さの木製の棒の様な物が3.4つ程刺しこまれており、そこにはゴミ袋がかけられていたり、プラスチックの紐状の物が巻き付けられていたりしていた。

そして、その中に、注視しないと到底見つけられないほど、目立たない、銀色のキーホルダーらしき物が掛けられているのが見えた。


「...何よ?」


都治巳杏里の言葉も耳に入らないほど、目を細めながら、俺はその銀色の物体へと近付く。


「ちょっと...。」


近付いてよく見てみると、やはりそれはキーホルダーだった。

それも、U◯Gと青色と書かれたペアルック用のキーホルダーだった。


「おい、これ...。」


それを、都治巳杏里に見せると、目を細めた後、手を口に当てて、驚いた顔を見せる。


「え?それって...。ちょっと貸して!」


バッと都治巳杏里は手に持っていたスマホを取り出して、写真とキーホルダーを見比べる。


「本物よ!これ!ねぇ、頼水君!!良くやったわ!」


「あぁ!やっと...やっと帰れる。」


まぁ、たった2.3時間だが、それでも見つけたという達成感は何というか、感無量である。


「...。何を言ってるの?折角、ここまで来たんだから泳がないと!!」


「...いや、見ろ。遊泳時間は17時までらしいぞ。てことは、もう泳げないんじゃ...。」


海の家に飾られた、遊泳時間を知らせる木製の板を指差し、都治巳杏里に言う。


「え?嘘でしょ?!!折角水着で来たのに...!」


「ざ、残念だな。まぁ、いくらでも行ける時間はあるだろ?」


「そうね、じゃあ...。明日だわ!」


「...?いや、俺は...。」


「頼水君は誘ってないんだけど...?」


「...。」


え?何で?

目の前で言われたら一緒に行こう的な事かと思ってしまうじゃないか。


めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。


「ププッ、嘘よ。そんなに私と行きたいなんてねー。モテるって罪よねー。」


「...。」


やっぱりコイツ...ムカつく。


「ちょっと待ちなさい、私に惚れちゃった、よ、り、み、ず君。」


「...。」


都治巳杏里の言葉を無視して、俺は斎藤さんの元へ足を進める。


「プププーッ」


「...。」

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