第8話 海+水着=物探し?その1


「ふー、暑いわね。」


「...。」


「何よ?」


「いや、何で水着...?」


「暑いからよ?」


「あ、そうすか。」


俺は薄々気づいていた。

コイツ、キーホルダーを探す気もあったのかも知れないが、1番は海に入りたかったのではないか、と。


何故なら、この女...今日の朝から部室に水着や何か分からない棒の様なものを既に置いていたのだ。

そんな事を、幽霊部員希望の人間がするだろうか?


答えはー否ーである。


それに昨日の時点でも、この海で探す時間なら完全に日が暮れるまでの、2.3時間程度は作れたはずなのに、わざわざ明日にしようと提案した。


これはほぼ確信犯といっても過言ではないだろう。


「よし、早速...探すわよ!」


「え??」


何を言っているんだ、コイツ。

そこは「泳ぐわよ!」じゃないのか?


「はぁ...何よ?」


「い、いや、てっきり泳ぎに来たのかと思って...。」


「はぁ?私達は、お助け部よ?依頼を放ったらかしにして海で泳ぐなんで、アンタ正気?」


「す、すみません。」


そうジト目で俺に威嚇してくる都治巳杏里に、俺は謝ることしかできなかった。

いや、というか水着なのが悪いのだ。

泳ぐ気もないのに、何故この女は水着を着ているのだろうか?


「てか、何で水着なんだよ。」


「はぁ??最初に言ったでしょ?暑いからって。」


「...。」


もしかしてコイツ、意外とマトモだったのか?

それとも俺の感覚がズレているだけで、暑いから水着を着るというのは普通なのか。


いや、普通じゃないだろ。


そう自分にクサいツッコミを入れて鳥肌を立たせながら、改めて都治巳杏里を見る。


黒の上下のワンピース水着に、麦わら帽子。

水着からはみ出る白い素肌と...。

クソッ。


自分ではそういう対象にはならない、と認識しているはずなのに、オスとしての本能と都治巳杏里のポテンシャルの高さから、つい意識してしまう。


「何、ジロジロ見てんのよ。」


「い、いや見てない...。」


バッと胸元から目を逸らす俺に、都治巳杏里はまるで嘲笑うかの様に、俺の視線に入ってくる。


「何?もしかして〜、興奮してんの〜?」


「ッ!!」


ムカつきと恥ずかしさで、前を向く事ができない。

そうやって、下を向いて、都治巳杏里の煽りを無視していると、後ろから聞いたことのある女子の声が聞こえた。


「都治巳せんぱーい!これで良かったですかー?」


その声に反応して後ろを見てみると、そこにも水着姿をした例の1年生がいた。


「ブフェッ?」


「ププッ、何その反応。」


都治巳杏里の嘲笑う声が聞こえたが、俺はそれを無視する程に、1年生...斎藤さんに視線が注がれていた。


豊満な山に、綺麗なスタイル、そして露出のありすぎる水着。

これは、あれだ。


童◯を殺す水着だ。


「はぁ、はぁ。これ重いですね。」


「ごめんなさい。頼水君に持って貰おうと思ったんだけど、この人、非力だから。」


そんなやり取りが俺の左の方から聞こえたが、都治巳杏里の煽りがどうでも良くなる程に、俺は動揺していた。


なんといったって、女子と海なんて初めてなのだから。

そして、その初めて行った海で女子が水着でいる。


なんて事だ。

まさか、これは...俺の人生のターニングポイントなのではないだろうか。


「頼水先輩、どうしちゃったんですかね?下を向いて動かないんですけど。」


「あぁー、そのまんま放って置いて大丈夫よ。さっ、日が落ちる前に早く探しましょ。」


「はい!お願いします。」




「...いや.....まさか...俺がこんな!....でも何で水着なんか...俺ジャージなんですけど.........。」


ーーーーーーーーーー


ピーピーピー。


「ここよ、さぁ掘りなさい。頼水君!」


「いや、どうやって掘るんだよ。」


「どうぞ!スコップです。」


都治巳杏里が手に持つ、手持ちの金属探知機のピー音によって、俺に命令が下る。

正直、お前が掘れよ、と斎藤さんから良いタイミングで手渡されたスコップを投げつけてやりたいが、流石にこの暑さの中、女子に掘らせるのは男としてダメだろう。


そんな事を考えながら砂掘っていると、ガコッという金属音がスコップの先から聞こえてきた。


「わっ!早く取り上げて、頼水君!」


「分かってるよッ!」


そう言って、スコップを置いて手で掘り進めると、銀色に輝く何かが見えた。


「んー、これは...。」


「えー、何よー、それ。」


出てきたのは金属製の瓶蓋の様な物だった。

この調子で、本当に見つかるのだろうか?


そう思いながらも、頼りがこの金属探知機な以上、ピー音に従って、しらみ潰しに探し続けるしかない。


暑さと、見つからないストレス。

後何分持つだろうか?


そんな事を穴を掘りながら考える。

ふと横目に見えた、人気の少なくなってきた海が、この時ばかりは無性に綺麗に見えた。

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