第7話 訪問者。


「あの...私、1年B組、斎藤佑香さいとうゆうかと言います。えっと、、、よろしくお願いします?」


ショートボブの髪型に、綺麗な2重、身長は160センチ位だろうか?

普通にいても、「お、可愛い」と目を向けてしまう程の顔立ちをしている。


やはりこの高校、都治巳杏里といい、辻雄介といい、男女揃って顔面偏差値が高い。

まぁ、いくら顔面偏差値が高くても俺の様な奴がいる事で均衡が保たれているのだから、みんな俺に感謝してほしい。


「あぁ、俺は2年A組、頼水瑞樹よりみずみずき、よろしく。で、こっちが...。」


「2年E組、都治巳杏里よ。よろしく。」


おい、なんだその優等生的な所作は。

俺といる時は「あ〜、よろー。」みたいな感じだろ。

もしかしてコイツ、俺が思っている以上に猫を被るのが上手いのか?


「それで、今日は何故、この我がお助け部に?」


いや、お前...「私、幽霊部員になりたいの。」的な事言ってたじゃん。

何、「我がお助け部」だよ...。


そう苦笑いをしながら、都治巳杏里の方を見ると謎のウィンクを返してきた。

何かムカつくので、すぐに視線を1年生に戻す。


「えっと、ですね。友人からこの部活動に相談してみたら、と勧められて来たんですが。」


「ほぅ、何か困り事が?」


「はい...実は、つい先日の日曜日、友人達と一緒に海に行ったんですよ。」


「ほぅほぅ、良いですね。」


なんだ、そのムカつく相槌は。

都治巳杏里に目を向けると、顎を指でなぞる様にして、半目で例の1年生を見つめていた。


「そしたら、その時、バッグに付けていたお気に入りのキーホルダーを無くしちゃって...それで友人も一緒に探してくれたんですが、見つからずに...友人も一緒に探す、と言ってくれたんですが、これ以上迷惑をかける訳にはいかない、と断ったんです。そしたら、このお助け部に相談してみたら?と言われて...。」


「あぁー、そういう事...。でも日曜だったら、もう2日も経ってるし...落とし物で拾われていたりしないの?」


「はい...その海にある、海の家にも落とし物で届けられていないか、確認したんですけど...ないって...。」


まぁ、例えキーホルダーの落とし物があったら、俺だったらわざわざ海の家まで持って行かずに、良くても、そこらの岩場に置いておく程度の配慮しかしないだろう。


俺の感性が一般的ならば、海の家に届く可能性は、ほぼほぼゼロといっていい。


「うーん。そうね...見つかるかはわからないけど、その依頼、受けるわ。ね?頼水君。」


「え、、、?あー、あぁ。」


ほぼ見つからないとは思うが、折角この部に相談してくれたのだから、全力は尽くそう。

この1年生、可愛いし。


だけど、何で幽霊部員希望の都治巳杏里が仕切っているのだろうか?

それもまるで部長のように。


この部活の部長は俺ですよ?


「わぁ、本当ですか!ありがとうございます!」


「えぇ、じゃあ明日...にしましょうか。その海ってこの近くよね?」


「近くですね。電車で10分程度だったと思います。」


「そう、じゃあ...んー、斎藤さんは明日、空いてる?」


「はい!」


「じゃあ斎藤さんも同行をお願いしても良い?バッグを置いていた場所とかも知りたいし。」


「はい、分かりました!」


「それにしても、、、」


そういって、ちょっとした世間話を2人がした後、「ありがとうございました。明日、よろしくお願いします。」と頭を下げて1年生は教室を出ていった。


「...なぁ...。」


「何よ?」


「幽霊部員希望じゃなかったっけ?」


「...ふっ、気が変わったのよ、この部活、面白そうなんだもん。」


「あー、そうですか。」


嫌な予感しかしないのは、気のせいだろうか。

いや、気のせいであってほしい。


「私、この部活に本格的に参加しようと思うわ!」


「...あー、うん。」


どうやら、気のせいではなかったらしい。

ふと、窓の外に目を向けると、飛行機雲が夕方の空に線を引いていた。

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