第5話 彼女の本性


「それでね、頼水君。」


「は、はぁ。」


結局、俺は都治巳杏里に連れていかれるがまま、高校とは少し離れた飲食店に入った。

最初入った時は、周りの視線が都治巳杏里と俺に過剰に向いていて息苦しかったが、俺のオドオドしさに、彼氏ではないと悟ったのか、次第に視線は都治巳杏里にだけ向く様になり、俺は次第に空気扱いになった。


まぁ、別にそんな事は気にしないが、俺と都治巳杏里が前と後ろに並んで入って来た時の、落差のあるリアクションはやめてほしい。

まるで美女と野獣だ、とでも言いたいのだろうか?


「突然だけど、私は、アンタが嫌いよ。」


「あぇ、あ、そうすか。」


本当にいきなり過ぎて、ついキョドってしまった。

30分前の俺よ、残念だったな。

何故デートやら何やらと思ってしまったのか。


ていうか、嫌いと真正面から言われるのは中々にキツイ。

そんなに嫌われる様な事しただろうか。


「まぁ、だからこんなに素が出せてるんだけどね。」


「へぇ...。」


いつの間に注文したのか、オレンジジュースをチュルチュルと飲みながら、嬉しいとは到底思えない事をボソっと俺に聞こえる様に呟く。


何だこいつ。

何だかムカついてきた。

いくら美少女だからといって、そんなにギスギスと俺の心を蝕んでくるのはやめてほしい。


「でね、だからこそ、部活に入れてほしいのよ。」


「...?」


こいつ、頭がおかしいのだろうか?

何故、嫌いな奴のいる部活動に入ろうとするのか。

普通に考えて意味が分からない。


「分からない、って顔ね。ふふっ、教えてあげるわ...!」


「あ、いや、結構です。じゃ。」


ダメだ。

俺の中の都治巳杏里に抱いていた幻想がボロボロと崩れていく。

成績優秀で眉目秀麗、それが彼女の肩書きなはずなのに、今俺の目の前にいるのは、あれだ。


---バカだ---


これでは、ギャップ萌えというより、ギャップ下げではないか。


これ以上は付き合っていられないと、俺は席を立つ。

が、右手首を掴まれて、俺は仰け反った姿勢になりながら、俺の手を掴んでいる当の本人を見つめる。


「離せ。」


「話を聞いて...!」


「...離せ!」


「いやよ!」


この状況に遭遇するまでは、ラノベでアホな美少女からダル絡みされて、キレる主人公の気持ちがわからなかったが、やっと今分かった。

いくら美少女だからといって、ダル絡みされると確かにウザい。


そんな事を考えながら、手を引っ張る様に前に進みだすと、都治巳杏里は俺の手首に体重を乗せながら「待って、本当に、お願いよー!」と懇願する様に引っ張ってくる。


「やめろ!腕が抜けるだろ!」


「アンタが話を聞くまで、離さないんだから!」


ウザい、ウザすぎる。

どうしたら、あの完璧美少女から、ここまでイメージを一変させる事ができるのか。


いや、最初に会った日から、何かとキャラの崩壊はしていた気はするが。


「分かった、分かったから!離してくれ!」


「...はぁ...本当に、手間をかけさせないでよね。」


まじで思いっきりぶん殴ってやりたい。

段々と整っているはずの彼女の顔が、アホ顔に見えてきた。


というか、周りの目が痛い。

このやり取りで、殆どの客がこちらに目を向けている。


「はぁ...単刀直入に話してくれ。」


俺は一息ついた後、机に戻り、都治巳杏里に尋ねる。


「分かってるわよ。まぁ、あれね、簡単に言うと、アンタの部活に入れてほしい。ちなみに私は幽霊部員になるつもり。以上!」


「あぁ、分かった。じゃあ俺が部長だから、明日の放課後、3階の準備室16まで来てくれ。じゃ。」


そう言って、早々と席を立とうとする俺の右手をまたもや力強く掴んで、真剣な顔つきで都治巳杏里は尋ねる。


「え?アンタが、部長なの...?」


「あぁ。」


「部員は?」


「俺だけだったけど、お前が入るなら2人になるな。」


「え...何よ、それ。」


「...?やめとくか?」


「最高じゃない。」


グヘヘと笑いながら、こっちを小動物の様な純粋な眼差しで見つめてくる都治巳杏里に、全くの可愛さも感じずに、外へ出る。


こうも数十分で心情とは変わるものだろうか。

俺のドキドキを返してほしい。


「そんじゃ、明日、放課後に待ってるから。」


「えぇ!ありがとう。」


そう言って、手を振りながら帰る都治巳杏里を見送り、俺も帰路に着く。


「はぁ...やっぱ現実ってこんなもんだよな。」


正直、辛い。

トボトボと歩いて帰る俺の心は完全に萎えきっていた。

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