第3話 悪魔参上!


「都治巳?さん?」


「何よ。」


「いや、何でここに、、、?」


「ここにって、ここは公共の場じゃない。何?私がいたらおかしいの...?」


「いやいやいや、そんなことはないけど。」


え?何、怖いんですけど。

もしかして、今さっきの会話に聞き耳を立てていたのだろうか?


都治巳杏里は、人を殺す様な目で俺を見てきた後、「はぁ。」とため息を吐いて、佐伯を見つめる。


「佐伯君よね?ごめんね。さっきの話偶然聞いちゃって...。」


「あ、あぁ。」


「莉奈の事、好きってほんと?」


「....。そう、だな。」


佐伯は、自分の額に手を当てて、参ったと言わんばかりに下を向く。


「え?マジ?!ふふっ。そーう、そーなんだ!」


さっきとは打って変わって、表情がパァッと明るくなる都治巳杏里と、佐伯。

正反対の反応を取る二人を見つめる俺の顔は、多分だが相当、血色の悪い顔色をしているはずだ。


「何だよ、笑いにきたのか?」


佐伯が、萎えた声で都治巳杏里に尋ねる。


「違うわよ。ただ嬉しかっただけ。」


「...?」


「まぁ、いいわ。佐伯君、とりあえず放課後、準備室3に来るよーに。大事な話があるから。」


「大事な話?」


「来てからのお楽しみ。あ...後、頼水君もね。」


「...?何で俺も?」


「んー、ついで?」


「マジですか。」


「マジよ。」


そう言い切る都治巳杏里の表情と、声色は何故か嬉しそうだった。

佐伯はずっと下を向いたまま、「ハハッ。」と意味のわからない所で相槌を打つbotと化してしまっていたが、そんな事には目もくれずに、都治巳杏里は足取りの軽い様子で自分の席に戻っていく。


------------


タンッタンッ


無言のまま、夕暮れに染まった廊下を2人揃ってトボトボと歩く。

一人は死んだ顔、また一人も死んだ顔。


当然、俺と佐伯である。


「なぁ、お前、都治巳さんと仲良かったのか?」


俺は、昼休み以降元気のない佐伯に尋ねる。


「ん?あぁー、まぁ莉奈と都治巳さんはいつも一緒にいるからな、俺もまぁ喋るかな?」


「え?知らなかったんですけど」と表情には出ていたかも知れないが、口には出さなかった。

何故か嫌な予感がしたからだ。


「そ、そうだったのか。まぁなら大丈夫だな。」


「...?」


佐伯が疑問符を浮かべた顔でこちらを見るが、「実は、都治巳杏里が振られたところ見ちゃってさー...」などとは絶対に言えない為、それを無視して俺は準備室3と書かれた小さな立札を指差す。


「ほら、着いたぞ。」


「あ、あぁ。」


「じゃ、入るか。」


コンコンッ。


「はーい。」


準備室のドアを叩くと、凛としている反面、可愛らしい鈴の音を彷彿とさせるかの様な女子らしい声が中から聞こえてきた。


「入るぞー。」


佐伯がそう言い、最初に中に入り、それに続いて俺も中に入る。


ゴクッ。


中に入った瞬間に大きな唾を飲む音が佐伯から聞こえた。


「いらっしゃい?」


「ふふっ、何よ、それ。」


佐伯の喉を鳴らした原因、それは都治巳杏里ではない。

都治巳杏里が座っている、実験用の丸椅子。


その隣に位置して座っていたのが橘莉奈であって、それが原因だったのだ。


「何、立ち止まってるの?早く、こっちに。」


「あぁ。」


都治巳杏里の呼びかけに、止まっていた佐伯が動き出す。

「やばい、嫌な予感しかしない。」そう思いながらも、俺も佐伯の後ろに隠れる様に進む。


俺には、都治巳杏里の微笑む顔が悪魔の所業にみえて仕方がなかった。

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