第2話 恋バナは突如にして恐怖に。


あの日から3日が経った。

正直、あの問答から俺の学校生活は終わってしまったかの様に思われたが、都治巳杏里は一向に行動に移さない。


クラスの奴らの俺を見る目も変わらない為、変な噂は流れていない様に見える。

これは、許されたと考えても良いのだろうか?


「おい、頼水。」


「んぁっ?」


「学食いこーぜ。」


「あぁ。」


そう気さくに話しかけてきたのは、このクラスで唯一の友人と言ってもいい男子、佐伯裕一さいきゆういちだ。

俺は当初、ある事件からこのクラスで腫物扱いを受けていた。

そのせいで、友人というものも一人もできず、殆どを読書と寝たフリで過ごしていたのだ。

そんな時、クラスの人間から、「アイツには話しかけない方が良い」という暗黙の了解を無視して、俺に話しかけてきてくれたのが、この佐伯裕一という男だ。


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学食に着いた俺たちは、両手にかけうどんの乗ったお盆を持って、空いている席に向かい合う様に座る。

いつもなら、授業が終わって直様学食に来たとしても、人が多く賑わっているはずの学食だが、今日は余り人が多くはない。

まぁ、多くはないといっても目に見えて空いている席は奥の1.2列しかないが。


「はぁ、、、。」


「ん?どうしたんだよ、お前がため息なんて。」


いつもは、学食に来ると満面の笑みで昼飯をガポガポ食う佐伯だが、今日はどうやら物憂げの表情を浮かべていた。


「いや、、、それがよぉ...聞いてくれよ。親友ーー!」


「...何かあったのか?」


「いや、誰にも言うなよ?」


「いや、言う奴いねーわ。」


「あっ、それもそうか。」


「おい。」


そんな、いつも通りの会話を挟みながら、佐伯は机の上で、手をつき深妙な面持ちで話を始める。


「俺さ、莉奈の事、好きなんだよ。」


「はっ?!マジかよ...。」


「...おう。」


佐伯の言う、莉奈というのは、佐伯の幼馴染の橘莉奈たちばなりなという子で、クラスでは性格も良く、顔もクラスの中で1.2番を争うレベルであり、中々にモテてしまうのだ。

佐伯とは小学生の頃からの長い付き合いであり、その長い付き合いからお互い本性を出せているのか、口喧嘩をしている場面を良く見る。


俺も佐伯と行動する様になって度々話す機会ができる様になったのだが、佐伯以外にはまるで聖人の様な在り様で、最初に佐伯との口喧嘩を見た時には「え?別人?」と思う程のものだった。


「え?だって、お前、良く口喧嘩してんじゃん。俺はてっきりそりが合わないのかと思ってたわ。」


「いや、違うんだよ。あれはその、あれだ。」


「...?」


「なんて言うか、あれだよ。俺たち長い付き合いだからさ、その普通に話してると、なんて言うか小っ恥ずかしいってゆーか。」


「あぁー、初恋拗らせた小学生みたいなもんか。」


「はっ?!ちっ、ちげーわ!」


「ははっ、で、いつから好きなんだよ。」


「ち、中2の頃から。」


「え?お前...意外と一途なんだな...。」


「まぁな。って、何でこんな会話がズレてんだよ。」


「いや、結局、好きだってことしか聞いてないしな。」


「まぁ、それもそうだな。」


「とりあえず.....な.....。」


話を切り出そうとした、佐伯の口がポカンと空いたまま時が止まる。


「ん?どーした佐伯。」


「...。」


まるで幽霊でも見たかの様な蒼白の顔で、俺の上の方を見ている。

何だ。何なんだ。

そんな反応をされると、見て良いものか悪いものなのか、分からないではないか。


「何よ、続けてよ。」


その声を聞いた瞬間、あっ、という鳥のか細い鳴き声の様なものが、口から漏れ出す。


「ん?何よ?」


なんと俺の後ろには、学園の高嶺の花、都治巳杏里がいたのだ。

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